鐘楼の石は誰が巻き上げたか

鐘楼庭園の夜会で、頭上から石の天使像が落ちてきた。

 像は聖女ダリアの足元で砕け、白い裾を裂いた。吊り綱にはドルヴァ家の赤い房飾りが結ばれている。

「カトリーヌ様が、私の立つ場所へ像を落としたのです」

 ダリアが震えると、伯爵令息ガスパルは砕石を蹴り、カトリーヌへ怒鳴った。

「殺人未遂だ。君との婚約は破棄する。鐘楼管理権も没収だ」

 カトリーヌは父から任された鐘楼を見上げた。毎朝、街へ時を届けてきた塔が、今夜は彼女を罪人にする舞台へ変えられている。鐘の音を嫌うガスパルのため、式の日だけは鳴らさない約束までしていた。胸は痛んだが、涙より先に古い砂時計を思い出した。

「鐘楼守フェルナンドを呼んでください」

 宴席の給仕に紛れていた小柄な老人が進み出た。彼は四十年使った革帽子を取り、塔の壁から《巻上げ砂時計》を外した。

 重い像を吊るす滑車を回すと、この砂時計には最後に綱を巻いた者の姿が一度だけ砂絵として残る。

 フェルナンドが逆さにすると、白い砂が落ち、像を持ち上げる人物を描いた。

 聖女ダリア本人だった。彼女は赤い房を綱へ結び、自分の立ち位置を床へ印までつけている。

「塔は高いところにありますが、見下してはおりません。誰の手も同じように覚えます」

 フェルナンドは砂時計を戻した。

 ダリアの震えは止まり、ガスパルは割れた天使像から目を逸らす。

「聖女は何者かに脅されていたのだ。カトリーヌ、婚約破棄も管理権没収も撤回する。像の修理代は君の家で持てばよい」

「なぜ、私どもが芝居の舞台代を払うのです」

 カトリーヌは赤い房を拾い、ガスパルの足元へ置いた。

「それに管理権は、罪を確かめず取り上げる方から返していただくものではありません。こちらからお返しします」

 フェルナンドは塔の鍵束を握った手を差し出した。

「南の町で、新しい鐘を鋳ます。時刻を誰のために鳴らすか、あなたと決めたい」

 カトリーヌはガスパルに背を向け、砕けた天使の翼を越え、フェルナンドの手を取った。