門柱の白い袋
毎朝、古賀森茉奈の家の門柱に、犬の排泄物を入れた白い袋が置かれた。
最初は一袋。やがて三袋、五袋と増え、玄関前に臭いが残った。
向かいの住人・天津原佳弦は、散歩中の犬を連れて言った。
「野良犬じゃないの。気になるなら自分で掃除すれば?」
茉奈が町内会へ相談すると、佳弦は逆に、茉奈が犬嫌いで自分を追い出そうとしていると触れ回った。
「証拠もないのに、飼い主を疑うのは差別だ」
ある朝、袋の一つが破れ、茉奈の子どもの靴へ中身が付いた。
茉奈は門柱へ設置していた宅配ボックス用のカメラを確認した。
午前五時二十二分。佳弦が犬を連れて現れ、自宅前で回収した袋を茉奈の門柱へ置いていた。翌日も、その翌日も同じ。犬が茉奈の敷地で排泄したのではなく、佳弦が別の場所から持ってきていた。
町内会長と、佳弦が借りる戸建ての大家を呼んで映像を見せる。
佳弦は、門柱が道路にはみ出しているから公共の場所だと主張した。
測量図では、袋を置いた位置は完全に茉奈の敷地内。さらに佳弦は、自宅庭の防犯カメラへ死角を作るため、境界の植木を勝手に切っていた。切断面と、彼の物置から見つかった枝の形も一致した。
「袋くらいで退去は大げさだ」
佳弦が笑うと、大家は過去の警告書を並べた。共用私道への放置、深夜の犬の吠え声、他家の植木への無断剪定。今回で四度目だった。
自治体職員は、他人の敷地へ反復して廃棄物を置いた行為について、条例違反として確認を進めると告げた。
佳弦は茉奈へ近づいた。
「犬に罪はない。俺を追い出したら、こいつも行き場を失うぞ」
茉奈は、動物保護団体の一時預かり申込書を示した。映像を見た団体が、犬の生活環境を心配して協力を申し出ていた。
「犬を盾にするのは、もうやめてください」
大家が契約解除通知を渡し、佳弦は退去まで犬を団体へ預けることに同意した。
門柱のカメラ映像が自治体の相談記録へ登録され、白い袋が最後に回収された瞬間、茉奈の家へ嫌がらせを運んだ佳弦だけが、犬より先に居場所を失うことになった。