雀が選んだ最後のパン
朝来野ひかりは、町のパン屋で成形を担当している。
丸パンを丸く、食パンを四角く、同じ重さ、同じ焼き色にそろえる。先輩たちは「十分きれい」と言うが、ひかりには少しの歪みばかりが見えた。
裏口には、毎朝一羽の雀が来た。
右の翼に白い羽が一本混じっている。パンは塩分や油分があるので与えず、店長の許可を得て、庭に小鳥用の粟を少しだけ置いた。
雀は粟をついばみながら、ひかりの心へ遠慮なく話しかけた。
『今日の丸、昨日より丸い』
「分かるの?」
『丸いかどうかは、雀にも分かる』
「褒めてる?」
『つまらない』
雀はひとくちと名づけられた。
ひとくちが気に入るのは、少し割れたパン、端が膨らんだパン、焼き色の濃いパンだった。食べるわけではない。窓越しに見て、尾を振る。
『あれはよい』
「商品には出せない」
『なぜ』
「そろってないから」
『雀は一羽ずつ違うが、群れになる』
ある日、ひかりは手の力を入れすぎ、丸パンの一つへ細い皺を作った。
焼けば目立たない程度だったが、彼女は売り場へ出さず、休憩用の籠へ入れた。
昼休み、裏口でそのパンを割る。
中から白い湯気が出て、小麦とバターの香りが広がった。皺の部分は少し香ばしく、噛むとそこだけ食感が違う。
『うまいか』
「うん」
『なら、失敗はどこだ』
「見た目」
『目も口も、お前のものだろう。口の意見も聞け』
ひかりは笑い、粟をひとつまみ庭へ置いた。ひとくちは胸を膨らませ、忙しくついばむ。
翌週、店長が「不揃い丸パン」という小さな籠を作った。
形の少し違うものを二割引きで並べる。最初はひかりも気になったが、子どもが「雲みたい」「こっちはお尻みたい」と選び、昼前には売り切れた。
完璧な列より、選ぶ時間が楽しそうだった。
閉店後、最後に一つ残った皺のあるパンを、ひかりは自分用に包んだ。
ひとくちが窓枠へ来る。
『今日の一番』
「形が?」
『お前が持って帰るところが』
帰宅して温め直すと、部屋へ小麦の甘い香りが満ちた。
窓の外では雀の群れが電線へ並び、一羽だけ白い羽が夕日に光る。
ひかりは丸くないパンを両手で割り、形の違う二つの半分を、どちらも同じように温かいと思った。