雨を待たない畑

枯葉村では、雨が降るたび喧嘩になった。

共同池から畑へ引く水路は上流の三家が先に開き、下流の小さな畑へ届く頃には泥だけになる。村長は毎年「家格の順だ」と言った。

宮廷を辞めた水術師クオンは、豪雨を呼ぶことも、無限に水を出すこともしなかった。

村の中央で杖を地面へ立て、地下水の響きを聞く。

「深さ十八尋。井戸を一本掘れば、雨を待たずに済みます。ただし、水を増やしても順番が同じなら、喧嘩も増えます」

クオンは畑の面積を測り、板へ一つの式を書いた。

一畝につき水門を開ける時間は一刻の十分の一。上流も下流も同じ。開始位置は日ごとに一つずつずらす。飲み水は畑用と別にし、誰でも先に汲める。

井戸の費用は収穫量に応じて一袋、半袋、免除の三段階。量と支出は共同倉の秤の横に掲示する。

「大きな畑ほど多く払って、使える水は面積どおりだと?」

上流の地主が不満を漏らした。

「多く払うから多く取れるのではありません。広い畑だから面積分を使えるだけです」

「なら手伝わん」

「構いません。手伝わなくても規則は変えません」

翌朝、下流の農婦たちが掘り始めた。

一日遅れて、上流の地主の息子が牛を連れて来た。水門の順が明確なら、夜通し見張る必要がないと気づいたのだ。やがて地主本人も石を運んだ。

労働は寄付にせず、費用から正確に引いた。誰かの恩が、水の順番へ化けないように。

井戸が完成すると、クオンは魔法で水を持ち上げる代わりに、皆で作った足踏み車を回した。

水が木樋へ上がり、四方の水路へ分かれる。

その日の開始札は、下流の最も小さな畑に立っていた。

村長が上流の水門へ手を伸ばす。

だが地主がその腕を止めた。

「今日はあちらからだ。板に書いてある」

最初の流れは細かった。

それでも乾いた畝を端まで進み、農婦の蒔いた豆の根元へ届く。土が黒く変わり、雨上がりの匂いがした。

クオンは空を見上げた。

雲は一つもない。

それなのに村人たちは、誰も空へ祈っていなかった。

皆、自分の番が来る時刻を知っていた。