雪壁に残す通路
スキー場が突然営業を止め、住み込みの若者たちは山腹の寮に取り残された。給料は半月分未払い。送迎バスも来ず、食料は米と缶詰だけだった。
御手洗大和と芝原悠利は、支援車両が上がれるよう、玄関から県道まで雪を掘った。夜の吹雪で積雪は腰を越え、昨日作った道は跡形もない。
「一本道でいい。車一台通れば」
大和が言うと、悠利はスコップ二枚分の幅を取った。
「すれ違えない」
「山道で誰とすれ違うんだよ」
「帰ってくる車」
二人はそれ以上話さず、交代で雪を放った。大和は閉鎖の知らせが出た日、最後の路線バスへ一人で乗ろうとした。荷物を積んでいる間に定員となり、乗れなかった。悠利はその姿を見ていた。それ以来、必要な言葉しか交わしていない。
昼過ぎ、道の途中で除雪機の音が聞こえた。支援車両は食料と灯油、それに町の一時宿泊所までの乗車券を持ってきた。人数分はない。希望者から出ることになった。
大和は一枚受け取った。行き先に知り合いはいないが、山を下りられる。荷造りを終え、玄関まで来たところで、悠利が屋根から落ちた雪に埋まりかけた裏口を掘っていた。
「そっちは使わないだろ」
「灯油庫がある」
大和は鞄を玄関へ置き、もう一本のスコップを取った。二人で裏口までの細い道を作る。今度は大和が、肩二つぶんの幅を取った。
支援車両は夕方、三人を乗せて下りた。大和の乗車券は、寮の連絡板へ画鋲で留められていた。期限は一週間ある。
車が去ったあと、寮には七人が残った。灯油は三日分、次の支援日は天候次第だった。悠利は缶詰を人数で割り、大和は乗車券を財布へしまわず連絡板に残した。逃げ道を捨てたわけではない。ただ、誰かが急に下山する必要が出たとき、使える場所に置いた。玄関から道路までの溝には、二人分の足跡が往復していた。
夜、大和は濡れた手袋をストーブ脇へ干し、スコップを外ではなく玄関の内側へ立てた。明朝また雪が積もっても、ここから掘り始められるように。