零時に変わる説明書

 王の剣が玲奈の肩を裂いた。祭壇まであと三歩。手の中の黒い硬貨が、零時まで残り十秒を示している。

【夜王の通行貨】

【王へ捧げれば、現実への門が開く】

【説明文更新 毎日0時】

【前回更新者 前所有者】

 硬貨は、先月消えた攻略班の荷物から見つかった。彼らの記録には《説明どおり王へ渡した》という最後の一文だけが残り、その後の行方は不明だった。玲奈は日付が変わるたび説明が少しずつ違うことにも気づいていた。《捧げよ》《返却せよ》《迷うな》。どれも命令口調で、必ず王に都合がよかった。

「レナ、置け!」

 仲間たちは王を押さえている。硬貨を祭壇へ置けば、半年続いた閉じ込めから解放される。攻略班が残した手順も同じだった。

 だが玲奈は《前回更新者》という小さな一行が気になっていた。この硬貨を落としたのは夜王本人だ。つまり、説明を書いたのも。前夜、試しに硬貨を握って「重い」とつぶやくと、零時に説明の末尾へその二字が加わった。公式表示に見える文章も、所有者の発言を写すだけかもしれない。

「あと三秒だぞ!」

 玲奈は祭壇の前で止まり、硬貨を握ったまま叫んだ。

「私は王に渡さない!」

 零時の鐘が鳴る。

 硬貨の説明が白く消え、書き換わった。

【夜王の通行貨】

【私は王に渡さない!】

【前回更新者 現在所有者《レナ》】

 仲間も王も動きを止めた。

「アイテム説明って、システムの真実じゃない」

 毎日零時、その日の所有者が最後に口にした言葉へ更新される。ただそれだけの仕様だった。王は自分で《門が開く》と吹き込み、攻略者に硬貨を返させていたのだ。

 夜王が玲奈へ飛びかかる。彼女は祭壇ではなく、王の背後にある料金箱へ硬貨を投げた。箱にはかすれた文字で《城外へ出る者、一枚》と刻まれている。

 硬貨が落ちる。王の身体が門の外へ弾き出され、内側から扉が閉じた。

【メインクエスト《王へ通行貨を捧げよ》を放棄しました】

【隠しクエスト《説明書を書いたのは誰》達成】

【不正な説明文を削除】

【対象名を《夜王》から《出口を占拠した元プレイヤー》へ訂正します】