電気を売る古い家

菊野辺風音の家には、夜になると窓が二つしか灯らなかった。

教室でその話を聞いた唐沢栞里は、電気代を払えないのだと決めつけた。

「暗い家って怖そう。うちは全部屋、空調つけっぱなしだけど」

風音は、使わない部屋の電気を消しているだけだと答えた。

夏、学校の空調が老朽化し、体育館での集会が中止になった。栞里は父が経営する設備会社なら高級機を入れられると自慢したが、見積額は学校の予算を大きく超えていた。

翌週、校庭へ太陽光パネルと蓄電池を積んだ車列が到着した。

作業員は風音へ設計図を渡す。

菊野辺家は、地域一帯の山林と風力発電所を所有し、再生可能エネルギー会社を経営する創業家だった。風音の母が社長で、祖父は学校の土地を無償で貸した地主でもある。

家の灯りが少ないのは貧しいからではない。築百年の母屋を断熱改修し、必要な電力だけで暮らす実験住宅にしていた。屋根で作った電気は、余った分を近隣の診療所へ送っている。広大な土地を持っていても、母屋を建て替えなかったのは、取り壊しより改修のほうが二酸化炭素を減らせるからだった。風音は毎晩、灯りを消す時刻と発電量を記録し、家そのものを研究設備にしていた。

風音は学校の消費電力を一年間調べ、体育館の屋根へ太陽光パネル、地下へ蓄電池を置く案を作っていた。工事費二億円は、菊野辺財団が全額負担する。

栞里が言った。

「寄付って、会社の宣伝でしょ」

風音の母は契約書を示した。設備の会社名は外から見えないようにし、売電利益は学校の奨学金へ入る条項だった。

さらに栞里の父の見積書には、存在しない機器費用が上乗せされていた。校長は提案を失格とし、市も公共工事の調査を始めると告げた。

工事が終わり、体育館の照明がすべて点いた。外は停電訓練中だったが、蓄電池だけで空調まで動いている。

制御盤に〈売電開始〉の緑ランプが灯り、奨学基金へ最初の入金額が表示された。

その瞬間、栞里が暗いと笑った古い家は、学校より先に未来の明かりを作っていたことが証明された。