霜竜は苺より雪が好き
王城の氷室に、霜竜の幼子が立てこもった。
扉を開けた料理人たちは白い息を見ただけで逃げ出した。幼竜が苺の籠を倒したため、厨房長は「食料を凍らせる害獣だ」と怒鳴る。
氷室係のエルネは、床へ散った苺を拾いながら幼竜を観察した。
料理を作らない氷室係は厨房で一番地味だと笑われる。けれど彼女は、魚が傷む温度も、果実が凍る直前の匂いも、指先で当てられた。
霜竜なのに、吐く息が弱い。舌を出して浅く呼吸し、角の根元が赤い。氷室を守る兵士たちが寒さを嫌がり、入口へ持ち込んだ炭火鉢の熱でのぼせているのだ。
「凍らせるんじゃなくて、暑がってます」
「こんな寒い部屋でか?」
誰も信じない。霜を吐く生き物が暑さに弱いなど、偉い料理書のどこにも書かれていなかったからだ。
エルネは兵士が止める前に炭火鉢へ蓋をし、氷の塊を木槌で細かく砕いた。布袋へ雪と細氷を詰め、幼竜の前へ滑らせる。幼竜は威嚇するように口を開いたが、袋から漏れる冷気に気づくと、ぺたりと腹を載せた。
じゅう、と雪が少し溶ける。
エルネは新しい袋をもう一つ作り、赤くなった角の根元へ当てた。幼竜の呼吸が次第に深くなり、尾の力が抜ける。エルネは溶けた袋を取り替え、角の赤みが引くまで、手の甲で何度も温度を確かめた。やがて体温が戻ったのか、鼻先から小さな雪の結晶を一つ吐いた。
結晶は床へ落ちる前に広がり、氷室の壁一面へ美しい霜模様を描いた。古い魔法氷より強い、溶けない霜だ。
厨房長の目の色が変わる。
「氷代が一生かからんぞ……」
幼竜は転がった苺を一粒嗅ぎ、興味なさそうにエルネへ押し返した。それから彼女の足元へ寝そべり、白い腹を上にして四肢を投げ出す。
「苺より、雪なのね」
エルネが腹を撫でると、毛先は霜のように冷たく、根元には眠りかけの子どもの体温があった。膝へ乗り上げた丸い胴の重さで、彼女の前掛けに小さな水滴がゆっくり染みていった。