青果市場の片方の長靴

午前四時の青果市場では、長靴の色で持ち主が分かる。

宍戸芽衣子は黒、篠塚有季は紺。芽衣子は道具を貸し借りすると管理が崩れると言い、有季は困ったときに余っているものを使わないほうが無駄だと言う。二人のロッカーは隣でも、棚の中身は混ざらなかった。

白菜の荷下ろし中、芽衣子の右足が急に冷たくなった。靴底が横から剥がれ、水たまりが入ったのだ。始業直後で、替えを買える店は開いていない。

「私の予備、使って」

「サイズが違う」

「中敷きを抜けば入る」

「借りたくない」

「風邪は返してもらえないよ」

芽衣子はガムテープを巻いた。三歩で剥がれた。競りが始まり、台車が次々に通る。滑れば自分だけでなく荷を倒す。

有季はロッカーから紺の予備を出したが、左足の靴しかなかった。右は先月、別の作業員に貸したままだという。

「管理が崩れてる」

「役には立つ」

芽衣子は笑いそうになり、やめた。自分の黒い左靴を脱ぎ、有季の前へ置いた。有季も履いていた紺の右靴を脱いだ。

二人は同時に片足ずつ交換した。芽衣子は黒の左と紺の右、有季は紺の左と黒の右。サイズは少し違い、歩き心地も悪い。それでも片方だけを借りるより、二人とも同じ不便を引き受けられた。

白菜の箱は、左右の持ち手を一人ずつ持って運んだ。主任に靴のことを聞かれると、芽衣子は備品不足を報告し、有季は貸出台帳を作ると答えた。考え方は交換されなかった。

休憩時、芽衣子は濡れた靴下を乾燥機へ入れ、有季は貸したままの右靴の行先を電話で確かめた。返却を責める代わりに、倉庫の棚へサイズ札を付けた。芽衣子も自分の予備を個人ロッカーではなく共用品の段へ置き、名前ではなく購入日を書いた。管理と貸し借りを、反対の言葉にしないためだった。

昼前、床に残った足跡は、黒と紺が交互に続いていた。

退勤後、二人は作業用品店へ寄った。芽衣子は自分用を一足、有季は共用の予備を二足、同じ籠へ入れた。会計だけは、きっちり別々にした。