魔導列車は遅刻を知らない
午前八時五十五分、ノアラ・フェンが北門駅へ着くと、運行長ジェドは目の前で職員口を閉めた。
「九時を過ぎた。今日も遅刻だ」
駅舎の大時計は、まだ五分前を示している。
「時刻表では勤務開始は九時です」
「私の時計が規則だ」
ジェドの懐中時計は、わざと十分進められていた。彼はそれをノアラの顔の前で振り、駅舎の大時計を見ることさえ禁じていた。
ジェドは笑い、彼女の出勤札へ赤い〈遅刻〉印を押した。今月だけで十二個目だった。ノアラにだけ始発前の清掃を無給でさせ、断れば遅刻扱いにする。休憩室では椅子を片づけ、食事を取れば〈列車より遅い口だ〉と皆の前でからかった。
その日は鉄道局の勤務監査があり、監査官が改札脇で一部始終を見ていた。
「運行長。その遅刻判定は正確ですか」
「当然です。本人が十二回も遅れた。出勤簿は私が責任をもって管理しています」
ジェドは十二枚の赤印すべてへ、運行長の署名を加えた。
監査官が杖を上げると、大時計、改札機、到着した魔導列車の運行石が同時に光った。
王国鉄道の時刻は、首都の原子鐘から一秒ごとに送られ、現場で書き換えられない。職員口も、通過した者と時刻を自動記録している。
壁へ十二日分の記録が並んだ。
ノアラの到着は、最も遅い日でも八時五十七分。
その直後、毎回ジェドの管理印で職員口が一時封鎖され、九時一分に解除されていた。
「安全確認のためだ」
「封鎖理由には〈ノアラを外で待たせる〉と、あなたが入力しています」
監査官が読み上げる。ジェドは理由欄まで自分で書いていた。さらに遅刻控除された賃金は、〈運行長特別手当〉として彼の口座へ振り替えられている。
「慣例だ! 若い職員への教育費として――」
「賃金の横領を、鉄道局は教育と呼びません」
ノアラは赤印の出勤札を机へ戻した。監査官が手をかざすと、十二個の印が消え、代わりに青い〈定刻〉が並ぶ。
ちょうど九時、始業を告げる汽笛が鳴った。
鉄道局長は汽笛が止むのを待ち、ジェドの運行章を外して処分書を開いた。
「ジェド・ハルバン。勤務記録改ざんと賃金横領により、本日付で解雇する」