黒曜石畑の朝寝坊

ユリアの畑では、作物の代わりに黒曜石が採れる。

昼の陽射しで溶岩台地が熱せられ、夜の冷気で表面に細い亀裂が走る。そこへ風の小人が入り込み、刃物に向く薄片だけをそっと剥がす。朝には石籠が満ち、翼のある荷台が刃物組合へ飛んでいく。

ユリアが早起きする理由は、本当は一つもない。

それでも最初の一月は、夜明け前に目が覚めた。王立兵器廠で十年、始業鐘より遅く起きたことがなかったからだ。灰青の作業服は砥石粉でざらつき、腹の前だけ研磨台に擦れて白い。退職時に返し忘れた呼出し石には、未読の緊急研磨が今も積み上がっていた。

『近衛注文、納期前倒し』

『刃こぼれ二百本』

『休日出勤、全員必須』

ユリアは呼出し石を伏せ、二度寝した。

最初の二度寝では、夢の中で始業鐘に追われた。二度目は昼まで眠った。三度目の今朝、ようやく夢にも工房長が出てこなかった。

次に目覚めたのは、太陽が窓の真ん中まで来たころだ。寝台脇の黒い会計札が、控えめに震えている。

《黒曜薄片三十四枚、納品済み。今月の食費・地代を充足しました》

兵器廠の月給より少ない。けれど、目覚まし鐘を止めても減らない収入だった。

台所で遅い朝食を作り始めると、呼出し石が卓上を跳ねた。元工房長サイラスの顔が浮かぶ。

『ようやく出たか! 王太子の剣が明朝までに必要だ。お前の研ぎでなければ間に合わん』

「間に合わせません」

『命令を断るのか』

「もう命令される身分ではありません」

『報酬は三倍だ』

ユリアは卵を割り、黄身が崩れなかったことに満足した。

「三倍働いたら、三倍疲れます」

『職人の誇りはどうした』

「ここにあります。だから、もう雑な納期で刃を研ぎません」

呼出し石の兵器廠紋を包丁の背で叩く。黒曜石より脆く、紋だけがきれいに割れた。

遠くで翼荷台が戻り、空の籠を畑へ置いた。風の小人たちは日陰に入り、採掘も今日は終わりらしい。

ユリアは厚切りのパンと半熟卵を皿にのせた。朝食には遅く、昼食には少し早い。

だから何だ、と笑い、窓辺で湯気が消えるまでゆっくり食べた。