黒焦げ肉の中心は四十二度

建国祭の主菜は、火竜牛一頭の丸焼きだった。

外皮は黒く香ばしく、料理長ザバンは「完璧だ」と胸を張った。だが前世で食品工場にいた研吾が鉄串を刺すと、抜いた先は生ぬるく、赤い肉汁が滴った。

「下働きが祝い肉に穴を開けるな!」

料理長は研吾を蹴り飛ばした。昨年の祭では、丸焼きを食べた騎士百人のうち三十八人が腹を壊した。それでも原因は「竜牛の呪い」とされていた。

研吾が使った知識は一つ。見た目ではなく、肉の中心温度を測ること。

鍛冶師に作らせた細い温度計を、最も厚い腿へ差す。目盛りは四十二度。表面が炭でも、中は安全な温度に届いていない。

料理長は薪を増やそうとした。研吾は炎を強くせず、肉を小分けにして中心まで七十五度になるよう焼いた。皮の香りは残し、赤い汁だけが透明に変わる。

同じ大きさの肉でも、骨際は六十一度、端は八十二度だった。研吾は熱い端の色では判断せず、一番冷たい場所へ針を入れ直す。見習いが十皿測るころには、勘で焼き上がりを叫ぶ者はいなくなった。針が上がるたび、厨房の不安も目盛りへ置き換わった。

試食役の騎士団長が、一切れを噛んだ。

「去年より柔らかい。しかも熱いのは表面だけではない」

祭では二千皿が配られた。診療所は夜通し待機したが、腹痛の札はゼロ。昨年は深夜までに三十八枚、今年は一枚も届かなかった。余った肉も、中心温度を確認してから兵舎へ運ばれた。

翌朝、料理長ザバンは「火竜牛が上等だった」と言い逃れた。だが同じ牧場、同じ個体番号、同じ薪の使用量だと仕入れ札に残っている。違うのは、研吾の細い一本だけ。

国王アドルフは宴席の中央で温度計を持ち上げた。

「この針は、宮廷料理長の勘より正確だった」

ざわめきの中、ザバンの金帽子が外される。研吾は処罰を望まなかった。ただ、今後すべての肉で中心を測る規則を求めた。

国王は即座に勅令へ署名した。

「規則を作る者が厨房を率いよ。研吾を王宮食品監督官に任ずる。次の祝宴一万食も、中心まで任せる」

温度計の針は七十五で止まり、注文数だけがさらに跳ね上がった。