黴びた豊穣神を根こそぎに
穀倉清掃員クレマイアは、白い黴を見つけるたび報告した。
だが神殿の司祭は、それを《豊穣神の粉》と呼んだ。粉のついた麦は二倍に膨らみ、領主は収穫量の数字だけを喜んだ。
彼女の技能説明は、誰にも読まれなかった。
【黴取り:湿った場所へ根を張り増殖する汚染を、菌糸ごと除去する。】
粉が現れて七日目、町中のパンが脈打ち始めた。
食べた者の腹には白い糸が浮かび、眠ったまま穀倉へ歩き出す。集まった人々は麦袋へ頬を寄せ、体温と息を何かへ差し出していた。
穀倉の中央で、麦の山が人の形に盛り上がる。
司祭は膝をついた。
「豊穣神がお姿を現した!」
麦の巨人は祝福する代わりに、集まった子どもの口へ菌糸を伸ばした。司祭はそれさえ「神との結合」と呼んだ。
クレマイアには、巨大な黴の塊にしか見えなかった。
兵が松明を投げようとする。しかし表面を焼けば胞子が熱風で町へ散る。すでに菌糸は床板の下、井戸、パン窯、そして眠る人々の体内までつながっている。
「根を取らなければ、また増えます」
彼女は防塵布を口へ巻き、黴の巨人へ手を当てた。
技能の視界が開く。
白い菌糸は穀倉から神殿へ伸び、祭壇下の小さな木像へ集まっていた。豊穣神像ではない。隣国の呪術師が納めた偽の寄進像だ。人の欲を湿り気に変え、麦を膨らませながら命を吸う菌核だった。
クレマイアは床下へ潜り、根の中心をつかむ。
「収穫が減るぞ!」と領主が叫ぶ。
「中身が人の命なら、それは収穫ではありません」
黴取り用の鉤を菌核へ差し込み、引き抜いた。
町全体が一度だけ大きく咳をした。
人々の皮膚から白い糸が抜け、パンはただの小麦へ戻る。膨らみは半分になったが、噛めば麦の甘さがした。誰の命も混ざっていない、本来の味だった。穀倉の巨人は崩れたが、麦粒そのものは傷つかず床へ積もった。
司祭の手には、空洞になった偽神像だけが残る。
領主が黙り込む中、農民たちはクレマイアの前へ、本物の今年の麦を一握りずつ置いた。彼女が使った鉤には緑の紋が芽吹き、木札の職名を根元から改めた。
【職業「穀倉清掃員」が上位職「根源除染師」へ書き換えられました】