『正解を知らない合格者』
技術職の採用面接で、応募者は提出したプログラムを「不正解」と告げられた。
面接官は画面を指した。
「模範解答と構造が違う。しかも実行結果だけは合っている。どこかで答えを盗み、理解せず写したのでしょう」
応募者は、自分で考えたと答えた。だが隣の応募者は模範解答と完全に一致し、すでに内定予定だという。
採用担当が、退職した開発者のファイルを開いた。名前は「来年はこの問題を使わないで.txt」。
面接官はため息をついた。
「問題作成者が辞め際に不満を書いただけです」
ファイルには、採用課題の仕様変更が記録されていた。旧問題は一つの正解を求めるもの。新問題は、負荷が増えた場合に自動で処理を分散することが条件だった。
応募者のプログラムは新条件を満たしている。模範解答は旧問題用で、実際には負荷試験で停止した。
面接官は「新仕様は正式承認されていない」と言った。
退職者は承認メールを保存していた。宛先は面接官、CCは採用担当と開発部長。面接官は「確認しました。次回から使用します」と返信している。
ではなぜ、隣の応募者だけ旧模範解答を知っていたのか。
共有フォルダのアクセス履歴を調べると、面接前夜、面接官が模範解答を開き、私用のクラウドへ保存していた。その十五分後、隣の応募者から「ありがとうございます」というメールが届いている。件名は「父の知人として」。面接官は削除したが、退職者のファイルにCCで残っていた。
「参考資料を渡しただけだ。採点には影響していない」
採用担当は面接評価の更新時刻を示した。隣の応募者の満点は面接開始前に入力済み。目の前の応募者の不合格も同時刻に決められていた。
応募者が静かに尋ねた。
「私は、何のために呼ばれたんですか」
誰も答えられなかった。
退職者の最後の一文が画面に映った。
――正解を渡された人ではなく、問題が変わったことに気づける人を採ってください。
開発部長は二つの判定欄を入れ替えた。
「あなたを採用します」
面接官が立ち上がる。
「待ってください」
「待つのはあなたです。調査が終わるまで、採用業務から外れます」
内定予定者の満点が消え、応募者の独創的な解答だけが保存された。