うどんを半分
神谷千紘は、入院前夜に一玉のうどんを二つの丼へ分けた。
親友が泊まりに来ていた。病院へ持っていく下着やタオルを畳み、床いっぱいに並べたあと、「何か食べよう」と言ったのは親友だった。千紘には空腹がなかった。
冷蔵庫に残っていたのは、ゆでうどん一玉と卵一個、ねぎの先だけ。二人分には足りないが、一人分には多い。千紘は鍋にだしを沸かし、うどんを入れた。
医師は、治療が始まればさらに食べられなくなるかもしれないと言った。食べられるうちに好きなものを、とも言った。好きなものを聞かれて、千紘は答えられなかった。好きな食事より、いつも残さず食べられた量のほうを思い出した。
卵を落とし、白身が固まったところで火を止める。黄身を崩さないよう半分に切るのは難しい。親友が包丁を出そうとしたので、千紘はお玉の縁でそっと分けた。一方には黄身が多く、もう一方には白身が多く入った。
「そっち、黄身多いよ」
「作った人の特権」
二人で床に座り、荷物の隙間で食べた。親友は早くすすらず、千紘の箸に合わせた。千紘が三本取れば三本、汁を飲めば同じだけ飲む。その気遣いを指摘すると食事が止まりそうで、何も言わなかった。
半分なら食べられた。最後にねぎが一本、丼の底へ張りついている。千紘は箸でつまみ、親友の丼へ移した。
「それくらい食べなよ」
「半分って決めたから」
親友は空の丼へ湯を注ぎ、底に残った卵の筋をゆるめた。千紘は入院バッグから余分なタオルを一枚抜き、その場所へ小さな水筒を入れる。食べる量も荷物も、半分にすれば持てることがある。親友が残りのねぎを輪ゴムで束ね、冷蔵庫へ戻した。千紘は次に使う日を考えず、切り口へ濡らした紙を巻く。紙が剥がれないよう、輪ゴムを二重にした。
親友は重ねた丼の横へ箸を二膳置いた。千紘は一本ずつ向きを直し、箸先を同じ高さに揃えた。
親友はねぎを食べ、二つの丼を重ねた。千紘は流しで洗い、伏せた丼の縁を揃える。下の丼に残った水が一筋だけ流れ、布巾へ吸い込まれた。