マスクの下の来訪者
来訪者は、住人を殺してから消えた。
高層マンションの一室で身元不明の女性が死亡していた。玄関前の監視映像には、大きなマスクと帽子を着けた配達員風の人物が箱を抱えて現れ、住人に招き入れられる姿がある。二十分後、その人物は廊下の死角へ入り、非常階段から消えた。
箱の伝票は、宛名が壁側を向いていた。管理人は、個人情報をカメラに映さない配慮だろうと言った。
人物はオートロックを、配達業者用の呼び出しではなく住人用の非接触鍵で開けていた。管理人は、住人が予備鍵を渡していたのかもしれないと推測した。
室内には争った跡があり、テーブルには二人分の茶が残っていた。死亡した女性の顔は損傷が激しく、身元確認は住人の鞄と衣服で行われた。警察は、来訪者が住人を殺し、服を一部持ち去ったと考えた。
住人の携帯電話は室内に残り、翌日の予定もそのままだった。管理人は、逃亡の準備がない以上、死んだのは住人に違いないと言った。だが冷蔵庫からは、二人分ではなく一人分の食事しか見つからない。茶だけが二人分なのは、訪問が短い交渉になると分かっていた者の用意だった。
私は映像を拡大した。箱を持つ左手の薬指に、細い癖がある。指輪を長く着けていた人に残る白い帯だった。住人の過去の写真にも、同じ位置に指輪がある。
さらに、住人には右足首を骨折した古傷があり、歩くときわずかに外へ開く。マスクの人物も、廊下の曲がり角で右足だけが外側を向いていた。
遺体の足首を調べると、古傷はなかった。
箱の中から見つかったのは、配達物ではなく、別の女性の衣服と身分証だった。死亡したのは住人を脅していた元共同経営者で、住人は相手に自分の服を着せ、顔を判別できなくしていた。
監視カメラの死角で、帽子とマスクを外せば、住人は来訪者として建物を出られる。予備鍵を持っていたのではない。自分の鍵だったのだ。
来訪者は、住人を殺してから消えたのではない。
マスクの下にいたのが住人で、室内に残された死者こそ来訪者だった。
殺人者が出ていったのではなく、「被害者」が自分の葬儀を置いて出ていった。