ミルクチョコは苦くない
下駄箱に入っていたチョコを、最初は悪ふざけだと思った。
包みは不器用で、リボンの結び目が左右で違う。差出人には、同じサッカー部の彼の名字が書かれていた。
教室で問い詰めると、彼は冗談にしなかった。
「俺が作った」
「何の罰ゲーム?」
そう聞いた瞬間、彼の顔から表情が消えた。
僕はすぐに後悔した。
放課後、彼は部活へ来なかった。昇降口のベンチに一人で座り、靴紐を何度も結び直していた。
僕は包みを持って隣へ座った。
「さっきはごめん」
彼は何も言わない。
「びっくりした。笑いたかったわけじゃない」
「同じだろ」
低い声だった。
僕らは一年からずっと同じポジションを争ってきた。試合では声を掛け合い、負ければ一緒に走った。彼のことを近いと思っていたのに、近さの形を勝手に決めていた。
「開けていい?」
彼がうなずいた。
中には小さな四角いチョコが三つ。表面に白い線で、ボールの縫い目みたいな模様が描いてある。
一つ食べた。
「甘い」
「ミルクチョコだから」
「苦いと思ってた」
「何が」
「こういう話」
彼は少しだけ笑った。すぐに目を伏せた。
「返事、今じゃなくていい」
僕は自分の気持ちが分からなかった。恋として好きなのか、仲間として大切なのか。簡単に同じ言葉へ入れるのが怖かった。
「笑わない」
まず、それだけ言った。
「誰にも言わない。逃げもしない。でも、まだ答えは分からない」
彼は長く息を吐いた。
「それでいい」
肩から、張りつめていた力が抜けた。
校庭から集合の笛が聞こえた。
「部活、行く?」
僕が聞くと、彼は立ち上がった。
「チョコ食べた分、走れ」
「三つ全部?」
「返事が出るまで一日一個」
「保留期間、短くない?」
並んでグラウンドへ向かった。
その日から何かがすぐ変わったわけではない。僕は何度も考え、彼も急かさなかった。
春の練習試合のあと、残っていた最後の包み紙を彼へ返した。
「答え、出た」
彼は何も聞かず、僕の顔を見た。
ミルクチョコは甘かった。けれど、答えを言う声は少し震えた。