一アカウントの帰還
比良坂スイたち四人は、崩れる塔の頂上で一人用の門を見つけた。
《帰還門》
一アカウントにつき一名のみ通過可能。
使用後、門は消滅します。
「誰が行く」
剣士のガロウが言った。治癒師のミナ、斥候のピピ、そして魔術師のスイ。ログアウト不能になってから五年、四人は同じパーティで生きてきた。門が一人しか通さないなら、三人は残る。
塔の下から世界崩壊の白い波が迫る。話し合う時間はない。
「スイが行け」とミナが言う。
「いや、ピピは子供だ」とガロウ。
「私は子供じゃない!」とピピ。
スイは門の説明を読み返した。
《一アカウントにつき一名》
一パーティでも、一プレイヤーでもない。一アカウント。
四人のステータス画面を並べる。アカウント番号は、全員同じだった。装備も職業も性別も違うのに、末尾まで一致している。
記憶が揺れる。現実の名前を尋ねると、誰も答えられない。ガロウは勇気、ミナは優しさ、ピピは恐怖、スイは判断。四人の性格は、あまりにきれいに役割分担されていた。
事故の衝撃で一人の意識が分裂し、ゲームが四つのアバターへ割り当てたのだ。
「一名しか帰れないんじゃない」とスイは言った。「一名に戻らなきゃ、帰れない」
ガロウが剣を置く。ミナが杖を置く。ピピは泣きながらスイの手を握った。
「消えるの?」
「違う。思い出すんだ」
四人で門へ入る。狭い光の中で身体が重なり、記憶が流れ込む。怖くても進んだ日、誰かを治したかった夜、考えすぎて動けなかった朝。どれも一人の人生だった。
塔が白い波に飲まれる直前、門から一人の少女が現実の病室へ落ちた。彼女の名前は比良坂翠。四つの声を胸の中に持っている。
統合の途中で、四人は互いの秘密まで知った。ガロウの強がりはピピの恐怖を隠すためで、ミナの優しさはスイが捨てたかった弱さだった。誰かが消えるのではなく、誰か一人では抱えきれなかった心を、四人で持ち帰るのだ。
《同一アカウント内の分割人格を統合しました》
《帰還人数:1》
《残留人数:0》
《ログアウト不能の原因:帰還主体が四名に分裂し、一名として確定できませんでした》