一人多い家族写真
家族写真では、影を本人の一人左へ立たせる。
父の影は母の後ろ、母の影は長男の後ろというように順番をずらす。人数が一人の場合、影のために空の椅子を置く。撮影中に影が列を離れても、写真家が位置を直してはいけない。現像後に一人多く写っていても焼き増しは一枚だけである。
畔上圭吾は、駅前の古い写真館を継いでいた。
入学、成人、結婚、遺影。人間は成長し、家族の数は増減したが、影だけは決められた順に並んだ。圭吾は床の立ち位置へ白い印をつけ、光量を測り、誰の影が誰の後ろに来るかを間違えなかった。
婚約者の菫を撮ったのは、六年前が最後だった。結婚式の前撮りで、二人だけなのに椅子を一脚置いた。圭吾の影は菫の後ろ、菫の影は空の椅子の後ろへ立つ規則だった。シャッターを切る直前、菫の影だけが列を離れ、暗室へ歩いていった。
撮影中の影は直せない。圭吾はそのまま一枚撮った。
式の三日前、菫は病院で亡くなった。写真は現像しなかった。フィルムを缶に入れ、暗室の最上段へ置いた。菫の影がどこへ行ったか、誰も尋ねなかった。
ある冬、一人の青年が赤ん坊を抱いて来店した。妻は出産直後に亡くなったという。青年は「二人で撮ってください」と言った。規則では、一人親と子は二人家族で、椅子は不要だった。
撮影位置へ立つと、青年の影は赤ん坊の後ろへ移った。赤ん坊の影はまだ形が薄く、床を離れて空の椅子を探すように歩いた。圭吾は倉庫から一脚出した。頼まれていないが、影のための椅子は人数に含めない。
赤ん坊の影は椅子の後ろへ立ち、誰かの手を握る形になった。青年は見ずに笑った。圭吾はシャッターを切った。
暗室で現像すると、椅子には白い手袋をした女性の手だけが写っていた。影は三つある。青年、赤ん坊、そして椅子から暗室の奥へ伸びる細い影。
圭吾は六年前のフィルム缶を下ろした。規則では、未現像の家族写真は次の家族写真と同じ液へ入れなければならない。二枚を並べて現像液へ沈める。
菫の写真には、空の椅子だけが写っていた。圭吾の影は菫の後ろにいる。菫本人は笑っているのに、彼女の影は写真の外へ歩き、もう一枚の赤ん坊の椅子へ続いていた。
圭吾は二枚を切り離さず、一枚だけ焼いた。
乾燥棚には、空の椅子が二脚並ぶ長い写真が残った。片方の座面に白い手袋、もう片方には菫の髪留めが置かれ、床には花束の形をした影が一つだけ落ちていた。