一往復で済ませない
夕方の物流倉庫で、青砥陸の前に段ボール箱が十二段積まれた。
班長は一番上へ赤いテープを貼り、フォークリフトの鍵を投げる。
「一往復で済む。全部運べ」
同じ荷姿、同じ鍵、同じ軽い命令だった。
前の人生で陸は断れず、最大積載量を超えた荷を持ち上げた。下り坂でブレーキが抜け、棚へ激突。連鎖して倒れたラックが、夜勤へ来たばかりの幼なじみ・渚を押し潰した。
会社は過積載を陸の独断とし、半年前から報告されていたブレーキ故障を隠した。
戻った時間は、鍵が掌へ落ちる五秒前。
陸は鍵を受け取らず、床へ落とした。乾いた音が倉庫に響く。
「一往復では運びません。そもそも、この車両は使いません」
「繁忙期だぞ。皆やっている」
「皆が死ななかったのは、運が良かっただけです」
班長を無視し、陸は最上段から箱を一つずつ下ろす。赤いテープの箱の下には、整備部が貼った《制動不良・使用禁止》札が折り畳んで隠されていた。
渚が入口から現れる。前と同じように「手伝おうか」と笑った。
「近づくな。白線の外へ」
陸の声に、渚は驚きながらも従った。
班長が苛立ち、自分で安全を証明しようと鍵を拾う。
「空荷なら問題ないだろ」
「それも駄目です!」
だがエンジンは始動した。班長がブレーキを踏み、試験用の短い坂へ進む。車体は止まらない。
陸は準備していた非常用輪止めを進路へ蹴り込み、同時に運転席横の電源遮断紐を引いた。フォークリフトは無人棚の手前で輪止めへ乗り上げ、横を向いて停止する。
ブレーキペダルは床まで沈んだままだった。
もし荷を積み、渚が棚の間にいたなら、前と同じだった。
午後六時十二分。以前なら端末に《労災事故発生、救急搬送》が表示された時刻。
倉庫全体へ通知が届く。
《全車両を緊急点検。負傷者なし》
《使用禁止札を隠した管理者を職務停止》
渚が白線の向こうから手を振る。
「じゃあ、今日は二往復ずつ一緒に運ぼう」
陸の端末では、彼女の勤務表示が初めて《退勤予定あり》のまま光っていた。