三本の影の指
北白川晃は、天井のスポットライトを九鬼谷玲奈の背後へ回した。
塩谷崎真帆が「あ」と声を上げる。壁には、長く伸びた三本の影。晃、真帆、玲奈の右手の影が、すべて玲奈の胸元を指していた。三人の手首には、人差し指だけをまっすぐ固定する金属具がある。誰へ向けたかを鮮明に撮るための道具が、光源をずらした瞬間、本人の意思とは別の方向へ細長く伸びた。判定カメラが読むのは手ではなく、壁へ落ちた黒い輪郭だけだ。
規則は一つ。
〈終了ベルの瞬間、最も多くの影の人差し指に示された一人を犠牲者とする〉
三人は自分の指を誰へ向けるかで争っていた。玲奈は真帆を脅し、二人で晃を指せと迫る。晃は従うふりをして、指ではなく照明の可動レバーへ手を伸ばした。
影の向きは、指先だけでは決まらない。光源の位置で変わる。
玲奈は晃へ指を向けている。だが背後から光を当てれば、その影は前方へ伸び、自分の体を横切る。真帆の指は床を向いていたが、低い角度の光が影を壁へ跳ね上げた。晃自身も横を指し、影だけを玲奈へ重ねる。
『指している本人の意思を判定します』
「規則は意思ではなく、影の人差し指と言っている」
玲奈が照明へ走る。晃はレバーを折り、角度を固定した。残り三秒。彼女が腕を下ろしても、壁に映る拳の端から人差し指だけが突き出ていた。開始時に装着させられた指示用キャップが、影を明瞭にする。
ベル。
画像解析の赤い線が三本の影を延長し、玲奈の輪郭で交わる。
〈指示影三。対象、九鬼谷玲奈〉
玲奈の首輪が赤くなる。
真帆は震えながら、晃へ向き直った。
「どうして玲奈を」
「彼女は最初に、君へ『晃を指さなければ殺す』と言った。影より先に、答えを決めていたから」
主催者は、指を向ける罪悪感を三人へ背負わせたかった。だが晃が動かしたのは光だけだ。人の意思を見世物にするはずの装置は、物理法則に従って冷たく判定した。
照明が消えると、三本の指も消えた。選択の記録だけが、玲奈の首輪に残った。