世界樹には剪定鋏を

《冒険王ジンの相棒が庭師って人選ミス》

《歩行世界樹は枝一本落とすたび再生する》

《植物知識で災害級をどうにかできるか》

人気冒険配信者・神代迅は、走る世界樹の根を大剣で受け止めていた。一本切るたび二本に増え、森だった空間は根の檻へ変わる。踏み荒らされた地面では、逃げ遅れた小さな芽だけが迅の足元に守られていた。同行する庭師・八重樫青葉は、戦闘用ではない小さな剪定鋏を持って幹を見上げた。

「迅さん、三秒だけ全部の根を地面から浮かせられますか」

「三秒でいいなら、世界ごと持ち上げる!」

迅が大剣を床へ差し込み、力任せに跳ね上げる。無数の根が土から離れ、世界樹の裏側が露出した。

《根の総数八千超え、切断は増殖トリガー》

《青葉が見てる細根、魔力反応ゼロだぞ》

《三秒しかない、早く逃げろ》

青葉は土の匂いを嗅ぎ、根の先についた水滴を見比べた。八千本のうち七千九百九十九本は、地面を抉っているのに土の湿り気を吸っていない。迅が持ち上げてくれなければ、幾重もの脚に隠れて決して見えなかった一本だった。青葉は他より細いその根へ鋏を入れ、一度だけ切った。

世界樹が歩みを止める。

八千の根から力が抜け、地面へ静かに横たわった。幹の裂け目から、拳ほどの緑の精霊が転がり出る。首には、樹全体を走らせる黒い寄生蔓が巻きついていた。

迅は大剣の先で蔓だけを払い落とす。精霊が泣くと、荒れた根から一斉に若葉が芽吹いた。

「一番弱い根を切ったのか?」

「逆です。あれだけが土から水を吸っていた生きた根です。残りは寄生蔓が作った脚でした」

《切断面解析、唯一の木質形成層を確認》

《迅が全根を露出、青葉が一本で本体と偽物を切り分けた》

《討伐じゃなく救命、それでも災害停止は最速記録》

迅は芽吹いた枝を一本だけ精霊から受け取り、青葉の剪定鋏へ結んだ。

「次の未踏域も来てくれ。俺は道を開く。どれが切るべき一本かは、君が決めろ」

迷宮庁の公式記録が更新される。

【歩行世界樹災害・停止所要時間 三秒――神代迅/八重樫青葉】