九十九点の分母

通販会社の委託先評価会議で、榛名坂仁はコールセンターの品質管理担当として、契約解除寸前の席にいた。応答品質が基準の九十五点を下回り、今月の委託料から一千万円を減額するという。

元請けの鹿戸運営部長が示した点数は九十四・九。わずか〇・一点不足だった。

仁は評価表を確認した。顧客アンケートは「満足」九百九十件、「不満」十件。通常なら満足度九十九点である。なぜ九十四・九になるのか。

数式では、分子が九百九十、分母が千四十三になっていた。実際の回答千件に、途中離脱四十三件を不満として加えている。

「離脱も顧客体験だ」と鹿戸は説明した。

仁は離脱ログを開いた。四十三件のうち三十八件は、元請けの決済システム障害で通話が強制終了したもの。残り五件は同じテスト番号から一分おきに発信されていた。発信者は鹿戸の部署である。

さらに評価基準書には、離脱通話を分母へ含める変更が追記されていた。施行日は今月一日だが、センターへ通知されたのは二十六日。受領印も、過去の月報から複写した画像だった。

鹿戸は、委託先なら指標変更へ柔軟に対応しろと言った。

「九十四・九は事実だ」

仁は正しい分母千件で再計算し、九十九・〇を画面へ出した。そこから決済障害分を除けば、センター起因の不満は二件だけになる。

センター長は次期契約を恐れ、減額の半分を受け入れようとした。仁は評価表の分母欄を指した。

「半分受け入れれば、来月は分母をいくつ増やされますか」

仁は減額金の使途も確認した。センター改善費ではなく、鹿戸部署の予算達成額へ振り替える予定だった。評価を〇・一点下げれば、部署の利益目標がちょうど達成される。テスト番号からの五件は、その不足を埋めるため会議前日に発信されていた。

通販会社の役員が一千万円の減額決裁を止めた。九十九点を九十四・九へ落とした四十三件が、評価表から一件ずつ消されていった。