乾かない二枚のタオル

出雲勇成が北条透慈の家へ連れてきた老犬は、泥だらけだった。高校水泳部の監督が飼っていた犬で、監督の入院中だけ勇成が預かっていた。

「庭から逃げた」

「お前、リード持ってただろ」

「飛び込み台より低い塀だと思った」

二人はかつて四百メートルリレーを泳いだ。県大会で勇成がフライングし、全員失格になった。透慈はプールサイドで「二度と顔を見たくない」と言い、勇成は本当に消えた。監督が倒れたという連絡だけが、六年ぶりに二人を同じ場所へ戻した。

犬を浴室へ入れると、壁まで泥が跳ねた。透慈がシャワーを持ち、勇成が胴を押さえる。犬は水が嫌いで、二人の間を逃げ回った。

「三、二、一で向き変えるぞ」

「数えるな」

「じゃあ、合図どうする」

「見れば分かる」

勇成が首を支えた瞬間、透慈は背中へ湯を流した。合図はなかったが、タイミングは合った。リレーの引き継ぎのようだと思い、二人とも口にしなかった。

洗い終え、タオルで挟んで乾かす。犬は勇成の膝へ顎を置き、透慈の足へ尻尾を当てた。監督の病状はまだ分からず、退院できなければ、この犬の行き先も決めなければならない。

「俺の部屋、ペット不可なんだ」

勇成が言った。

「知ってる。監督から聞いた」

「じゃあ、ここで」

「勝手に決めるな」

透慈はそう言いながら、台所から餌皿を二つ出した。一つは水、一つは餌。棚の上には新品の首輪もある。犬の分だけ準備したと言うには、玄関に大きなスポーツバッグ用の空きがあった。

夜、犬が勇成の上着の上で眠った。取り返そうとすると唸る。透慈は押し入れから古いバスタオルを二枚出した。端には油性ペンで「出雲」「北条」と書かれている。遠征で使っていたものだった。

「監督が保管してた」

「俺の、捨てていい」

「犬を拭くのに要る」

二枚を浴室の同じ棒へ掛けた。まだ湿っていて、朝までには乾きそうにない。勇成は終電を調べた画面を閉じ、犬の下から上着を抜く代わりに、スポーツバッグを玄関の空いた場所へ押し込んだ。