乾燥機三号の夜

コインランドリー「月輪」は、乾燥機三号が止まるたび返金していた。修理業者を呼ぶ金はなく、柳瀬由良と山吹が閉店後に背面を開けた。

「ベルトが裂けてる」

山吹が黒いゴム片を引き出した。純正部品は届くまで一週間。二人は倉庫から古い二号機のベルトを外し、長さを比べた。

柳瀬は大きなごみ袋を三つ持って出勤していた。中身は服と毛布。別居が決まり、今夜から車で寝る。山吹にだけは知られたくなかったが、洗濯槽へ一度に押し込んだせいで、隠しようがなかった。

「詰めすぎ。回らない」

「金、二回分使いたくないんで」

「従業員は点検扱い」

山吹は硬貨を入れず、管理キーで二台を動かした。追及もしなかった。

二人は三号機のドラムを持ち上げ、古いベルトを滑り込ませた。幅が二ミリ足りない。柳瀬がプーリーを押さえ、山吹が少しずつ回す。指を挟みかけ、互いに同時に手を引いた。

「この店も売却らしいですよ」

「買う人がいれば」

「いなかったら?」

「洗濯物が乾くまでは、開ける」

借り物のベルトは、回転すると小さく鳴いた。二人で空運転を見守り、十分後に停止させる。熱は上がりすぎていない。完全な修理ではないが、明日の客は使える。

その間に柳瀬の洗濯が終わった。乾燥機へ移すと、山吹は自分の弁当箱からおにぎりを一つ出し、操作盤の上へ置いた。柳瀬は礼を言わず、半分に割った。山吹も礼を待たなかった。

午前二時、服は乾いた。ごみ袋へ戻そうとすると、山吹がスタッフ用棚の忘れ物を全部床へ下ろした。片方しかない靴下、古い雑誌、誰のものか分からない傘。

「処分期限、今日」

空いた棚へ、柳瀬の畳んだ毛布がちょうど収まった。車へ持っていく必要はない、と言われているようだった。

店の売却話も、柳瀬の別居も、何ひとつ片づいていない。彼は服だけ袋へ入れ、毛布を棚に残した。三号機の試運転札へ、明日の確認時刻を書き込む。

外は冷えていた。柳瀬は車のエンジンをかける前に、管理キーが胸ポケットにあることを確かめた。朝になれば、毛布を取りに戻る理由がある。