二人乗りの置き場所

サイクリング部の部室で、三人は古いタンデム自転車を磨いていた。

木暮周は自動車メーカーへ入る。越智汐里は町の自転車店。朝倉嶺は道路設計をする建設会社に決まった。

「自転車部から、車を作る人、売る人、道を作る人か」

汐里がチェーン油を差す。

「俺だけ裏切り者みたいに言うなよ」と周。

「面接では何て言ったの?」

「自転車で培った移動への関心を、自動車の安全技術に生かす」

「私たちを追い越す側になるんだ」

嶺が後輪を回した。

「俺の会社、自転車レーンを削って車線を増やした案件もある」

「三人とも裏切り者でよかった」と周。

笑いはしたが、音は空回りする車輪に吸われた。就活中も三人は面接会場まで一緒に走り、雨に濡れたスーツをこの部室で乾かした。結果が出るたび、帰り道だけが少しずつ別になった。

汐里は大手メーカーの販売職を辞退した。父が腰を悪くし、実家の店を閉められなかったからだ。周は研究職を希望したが営業配属の可能性が高い。嶺は都市計画をやりたかったが、最初の赴任地は山間部のバイパス工事だった。

タンデムで遠出したのは一度だけだった。前席と後席で息を合わせるうち、荷物番の一人はいつも先回りして写真を撮った。

「就活前は、三人で日本一周するって言ってたよね」

汐里がタンデムの前席に座る。

「二人乗りだぞ」と嶺。

「一人は交代で荷物番」

「もう交代できる休みが合わない」

周は会社の年間休日を、嶺は工期を、汐里は店の定休日を口にした。三つの予定表に、同じ一週間はなかった。

「この自転車、後輩に残す?」

「フレーム曲がってる」と周。

「直せるよ」と汐里。

「道路が悪い場所では危ない」と嶺。

それぞれ正しい意見が、廃棄という一つの結論へ集まった。

三人は部室の鍵を返すため立った。汐里が最後に後輪を回す。周は前の扉から、嶺は工具倉庫から、汐里は裏口から出た。

タンデム自転車は中央に残った。前後のサドルは同じ方向を向いているのに、二つのペダルは噛み合わず、片方が進めばもう片方が必ず逆へ回った。