二度目の終了

八神昴は、配信サイトの不具合を実況することで知られていた。停止する広告、増殖するコメント、消えない低評価。障害さえ再生数に変えた。

深夜、差出人不明のURLが届いた。サイトのサポート履歴には、百年前の日付で《終了できない場合も、終了は一度だけ》という問い合わせが残っていたが、回答者欄は空白だった。開くと、古い火葬場の待合室が無人で映っている。説明欄には「糸終い」とだけあり、注意文が一行あった。

《終了ボタンが一度反応しなくても、二度押してはいけない》

昴は自分の画面を共有し、その配信へ反応する様子をさらに生配信した。視聴者は面白がって終了を促した。

午前二時、火葬場の映像に喪服の男が入ってきた。背中しか見えないが、着ているパーカーは昴と同じだった。男が椅子へ座ると、昴の配信画面に赤い「終了」ボタンが現れた。

一度押す。反応しない。代わりに火葬場の男が椅子から立ち、画面越しに同じボタンへ指を置いた。

コメントが《もう一回》《規則破れ》で埋まる。昴は笑い、二度目を押した。

画面は暗転し、「配信を終了しました」と表示された。しかし横の視聴者数だけ増え続けた。スマホで自分のチャンネルを開くと、配信は継続中。映っているのは火葬場ではなく、昴自身の目から見た部屋だった。

手でカメラを塞げない。視線をそらせば、その方向が配信される。瞼を閉じても暗闇の中でコメントが流れた。

《まだ見てる》

《次は会社》

《終了したのはどっち》

翌朝、昴はスマホを置いて出社した。だが同僚の端末には、通勤中の視界が生中継されていた。

勤怠アプリを開くと、出勤ボタンが灰色になっている。

【退勤処理はすでに完了しています】

時刻:午前二時〇二分

理由:二度目の終了

下に確認ボタンが出た。

《本人を終了しますか?》

触れていないのに、カウントダウンが始まる。十、九、八。

社内チャットへ最後の通知が投稿された。

【八神昴がライブ配信を終了しました】

同僚たちが一斉に顔を上げた。そこにいたはずの席だけが、まだ昴の視界を配信していた。