二枚目の小皿
夕葉は父と餃子を食べるため、中華料理店のカウンターに座った。
注文したのは十二個入りを一皿。父は料理が来る前から、夕葉の前に置かれた小皿を自分の近くへ寄せた。
「酢、多めだったな」
「今はラー油も入れる」
「胃に悪い」
父はそう言いながら、夕葉の小皿へ酢と醤油を注ごうとした。
夕葉は店員を呼び、もう一枚の小皿を頼んだ。
「分けるほどじゃないだろ」
「たれを分けるの」
「同じものを食うのに」
「同じ味にしなくていいから」
白い小皿が二枚並んだ。夕葉は自分の皿へラー油を三滴落とした。父は酢だけを入れた。赤と透明が、カウンターの上で隣り合う。
焼きたての餃子が届くと、父は端から二つを夕葉の皿へ移した。
「先に食べろ」
「自分で取る」
「遠慮するな」
「遠慮じゃない」
夕葉は移された二つを大皿へ戻した。皮が少し破れ、肉汁が皿へ広がった。
父の箸が止まる。
「いちいち突っかかるな」
「取っていいか聞いてほしいだけ」
「餃子で?」
「餃子から」
店の奥で鍋を振る音がした。父は大皿を見下ろし、やがて一番手前の一個を箸で挟んだ。
「これは俺が食べていいか」
皮肉のような調子だった。
「どうぞ」
夕葉も一個取った。
二人はしばらく黙って食べた。父が三つ、夕葉が二つ。残り七つ。いつもなら父は数を決め、夕葉の取り分を先に並べただろう。
父は五個目に手を伸ばしかけて止めた。
「あと、いくつ食べる」
「たぶん四つ」
「じゃあ俺は三つか」
「足りなければ追加しよう」
「金がもったいない」
「今日は私も払う」
父は夕葉の顔を見た。会計まで分けるつもりか、と聞きたそうだった。夕葉は財布をカウンターへ出した。
最後の一個が大皿に残った。父は箸を置き、言った。
「食べるか」
「半分なら」
父は餃子を小皿の縁で割ろうとしたが、うまく切れない。夕葉が箸で押さえ、二人で半分にした。大きさは不揃いだった。
「大きいほう、どっち」
父が尋ねる。
「そっちでいい」
「本当に」
「うん。今は私が決めたから」
父は大きい半分を自分の小皿へ置いた。夕葉のラー油へは触れなかった。
会計は別々にした。店を出ると父は、「次は一人前ずつ頼むか」と言った。
夕葉は「それならまた」と答えた。二枚の小皿ほどの距離なら、同じ食卓に座れる気がした。