五十三曲だけ残す
鈴羽は、元恋人と作ったプレイリストを削除できずにいた。
百八十二曲。追加した人のアイコンが交互に並び、曲順だけで二年間が分かる。
ラジオ局で選曲をしている伊織は、曲に所有権はないと言った。
「でも、この曲は彼が教えた」
「教えた人と、聴く人は別」
「思い出さない?」
「思い出す曲はある。でも放送は止めない」
鈴羽には、その割り切りが冷たく聞こえた。
二人は床に座り、スピーカーから一曲ずつ十五秒だけ流した。鈴羽が今後も聴きたいなら星印、無理なら外す。伊織は好みを口にせず、再生と停止だけを担当した。
海沿いのドライブで流れた曲。喧嘩のあとに送られた曲。プロポーズ代わりだと言われた曲。
そのたび鈴羽の指が止まる。伊織は次へ飛ばさず、十五秒が終わるまで待った。
九十七曲目で、鈴羽が自分から追加した古い女性歌手の曲が流れた。
元恋人は「暗い」と嫌っていた。鈴羽はプレイリストから外したことを忘れていた。
「入れ直す」
「どこに?」
「新しいほう」
伊織が空のリストを作る。タイトル欄で鈴羽は迷い、日付だけを入れた。
途中で伊織の仕事の電話が入り、鈴羽は一人で次の曲を判定した。戻った伊織は理由を聞かず、星印の数だけ確認した。
作業は三時間かかった。残したのは五十三曲。元のリストは削除せず、共同編集を解除して非公開にした。
「消さないんだ」
「消すのは、まだ彼のために何かする感じがする」
「私は消したほうが速いと思う」
「知ってる」
二人の答えは違ったままだった。
最後に、二人分買っていた来週のライブチケットを公式リセールへ出す。伊織が一緒に行こうとは言わなかった。その日は自分の番組があるからだ。
鈴羽が出品ボタンを押し、伊織が価格と席番号を確認した。
「確定」
「うん」
売却受付の通知が届くと、伊織は機材を鞄へしまった。
「この五十三曲、今夜の放送で使わないでね」
「私物は使わない」
「曲に所有権ないんじゃないの」
「選んだ順番にはある」
伊織が帰ったあと、鈴羽は新しいリストを最初から再生した。
一曲目は、誰にも勧められず自分で見つけた歌だった。