人こそ城壁という一文

「比喩か文字どおりかを一度見分ける? 詩人の採点でもする気か」

結界院の鑑定で、キシェンは無能とされた。

【能力:《比喩判じ》――一つの文章について、指定した表現が比喩か文字どおりかを理解する】

術式を直す力はなく、一日に一文だけ。彼は城壁碑文の清掃係へ回された。

魔王軍が王都を包囲した日、古代結界が発動しなかった。

城門の石碑には「この都に住む人こそ城壁なり」と刻まれている。歴代の学者は、民を守る決意を説く比喩だと解釈してきた。そこで守備軍は石壁へ魔力を注ぎ、厚さを増そうとした。

しかし砲撃のたび、石壁は崩れる。

結界王ヴァレグは王族の血を碑文へ捧げた。それでも何も起きない。避難民は城中央へ集められ、外周には兵だけが残った。

キシェンは碑文へ触れた。

《比喩判じ》

「人こそ城壁」は比喩ではなかった。

古代結界が認識する壁は石材ではなく、都へ住む意思を持つ人間の輪だ。住民を中央へ固めたため、王都は自分の外周を失っていた。

「民を城壁へ並べろというのか!」

ヴァレグが怒鳴る。

「戦わせる必要はありません。住む場所の境へ立ち、自分の家を内側だと認めてもらうだけです」

兵が鐘を鳴らし、住民へ伝える。パン屋は店の角へ、鍛冶師は工房前へ、子供は親と手をつないで通りの端へ立った。逃げ込んだ獣人や旅人も、今夜ここを家と呼ぶなら輪へ加わった。

最後の一人が位置につく。

石壁ではなく、人々の胸から青い光が立ち上がった。光は通りをつなぎ、王都全体を覆う巨大な半球になる。魔王軍の砲弾は光へ触れた瞬間、花火のように散った。

住民は武器を持たず、ただ夕食の鍋や店の鍵を抱えて立っていた。それでも結界は歴代で最も強かった。

試験官が「危険な解釈だ」と非難する。

ヴァレグは自分の冠を外し、輪の中へいた老婆へ預けた。

「民を壁の内側へ隠すことが守ることだと思っていた」

結界王は碑文の青鍵をキシェンへ渡す。

「今日からこの都の外周は、石工ではなく、おまえと住民が決めよ」