休日を課税しないで

算木怜司は王都税務局で、数字に埋もれて呼吸していた。

灰青の制服は机の縁で腹部が擦れ、袖には赤い訂正インクが落ちない染みを作っていた。月末は三日眠らず、計算が合わなければ新人の分まで直す。退職後の端末には未読の緊急連絡が六十件。「決算不一致」「監査が来る」「前任者として説明せよ」。前任者という言葉だけが、都合よく現役へ戻されていた。

山間の町へ移った怜司が得た無限収納は、入れた帳簿を日付、地域、取引先ごとに勝手に整理した。紙片一枚でも失われず、同じ数字の食い違いまで赤く示す。

彼は小さな自治体向けに《眠らない文書庫》を貸した。町役場が書類を投入口へ入れると分類され、必要なときは検索札で取り出せる。保管料は月に銀貨一枚。十の町が契約すれば、怜司には十分だった。計算も請求も収納が自動で行う。

ある朝、庭へ鳥の餌台を作っていると、帳簿石が明滅した。

《月額保管料:十二区より入金》

《基礎生活費を達成。新規契約を受ける必要はありません》

“必要はありません”を見て、怜司は肩から見えない算盤を下ろした。収入欄をもう一度足し直そうとして、途中でやめる。収納は間違えないし、今月は足りている。確認を重ねない自由も、休みの一部だった。数字が足りている朝に、さらに数字を増やす義務はない。

直後、元局長から最高優先度の通信が入る。

「中央監査で七百万枚の帳票が合わない。お前なら一晩で原因を出せる」

「無理です。一晩でやる量ではありません」

「昔はやっただろう」

「昔の私が間違っていました」

局長は昇給、個室、勲章を順に提示した。どれも眠りを返してはくれない。

怜司は文書庫の法人契約案内を送った。

「書類は預かれます。私自身は貸し出していません」

「国家命令だぞ」

「退職者の休日まで課税しないでください」

通信を閉じ、最高優先度の許可を解除する。餌台へ穀粒を置くと、すぐに胸の黄色い小鳥が降りた。怜司は無限収納から双眼鏡と折り畳み椅子を取り出し、その日の仕事を鳥の名前を一つ覚えることに決めた。