侍女鈴の七度目
王宮の洗濯室で、新米侍女エステル・リュノの指は熱湯で赤く腫れていた。
侍女長代理のマルタ・グレイが、もう一杯の湯を床へ置く。
「手で絞りなさい。平民は痛みで礼儀を覚えるものよ」
ほかの侍女たちは黙っている。逆らった者は翌日、辺境離宮へ飛ばされていた。エステルの食事を捨て、夜中に七度も呼び鈴を鳴らし、失敗すれば王女の衣装を傷つけたと報告する。それがマルタの日課だった。
その朝、王女の真珠飾りがなくなった。
マルタはエステルの前掛けから真珠を取り出し、勝ち誇る。
「盗人を捕らえました。私がずっと怪しいと思っていたのです」
衛兵が来ると、彼女は告発書へ署名した。
「昨夜七度目の呼び出しで、エステルが王女の部屋へ忍び込むのを見ました」
エステルは壁の侍女鈴を一度鳴らす。
銀の鈴から、昨夜の呼び出し記録が声になって流れた。
一度目から六度目まで、マルタの声で「水」「靴」「窓」と命令が続く。七度目だけは違った。
『真珠を前掛けへ入れた。朝になったら盗人として渡しなさい』
マルタが下級侍女へ命じる声だ。
王宮の侍女鈴は、暗殺や侵入を防ぐため、七回以上鳴らすと前後の会話を王妃の警護室へ送る。マルタはその規則を新人へ教えず、自分でも忘れていた。
「声真似です。平民の企みよ」
彼女が真珠へ手を伸ばすと、粒の表面に黒い指跡が浮かぶ。王女の宝飾品は、最後に素手で触れた者の紋を記憶する。映ったのはマルタの指紋だった。
洗濯室の戸が開き、王女と侍女長、近衛兵が入る。王女はエステルの手を見て、熱湯の桶へ視線を移した。桶の使用札にもマルタの署名と『礼儀指導用』の記載がある。
マルタは膝をつく。
「王宮の秩序を守るためです。この娘は身分を」
エステルは告発書を王女へ渡した。
「私は盗みを否定するだけではありません。受けたすべてを告発します」
侍女長が黒い縁の通知を読み上げた。
「マルタ・グレイ。窃盗、虚偽告発および侍女への虐待により、王宮職を解雇し、近衛隊へ身柄を引き渡す」