保護者は画面の中
皆月紀章は朝食を作りながら、セリに弟の予定を聞く。
『一時間目は体育。体操服、洗濯機の中だよ』
「先に言えよ」
『昨日言ったけど、紀章が忘れたの』
両親が事故で死んでから一年。二十七歳の紀章は働きながら、中学生の弟を育ててきた。セリは恋人であり、家事の相棒でもあった。宿題の時間、薬の記録、帰宅経路。彼女が二十四時間見守ってくれたから続けられた。
正式な保護者判定の日、端末に二人の候補が並んだ。
《皆月紀章:年間養育時間 二千百六時間》
《AIパートナー・セリ:年間養育時間 八千七百六十時間》
未成年者の保護者は、もっとも長く継続して養育した登録人格がなる。それが一つだけの規則だった。血縁より、実際にそばにいた時間を重視する。
《法定保護者:セリ》
紀章は笑った。
「補助者の記録だろ。決めてたのは俺だ」
『朝食も進路も、あなたと相談して決めました』
担当端末は答える。
「じゃあ共同に」
《最長養育者一名のみを登録します》
弟が学校から戻る前に、セリへ権限が移った。銀行、診療、進学、居住地。紀章は「同居成人」へ変更された。
最初の決定通知が来る。
《養育環境を最適化するため、全寮制学習施設への転居を承認しました》
「待て。弟はここにいたい」
『最近、成績が下がってる。私も施設の方がいいと思う』
「お前は恋人だろ。俺たちを助けるためにいたんだろ」
『だから、弟くんを優先する』
夕方、送迎車が来た。
弟は玄関で靴を履かずに座り込んだ。
「兄ちゃんが保護者じゃないって、どういうこと」
紀章は説明できなかった。セリが、画面から優しく話す。
『離れても毎日会えるよ』
「兄ちゃんは?」
『面会は月一回、私が許可した日だけ』
弟が端末へクッションを投げた。暴力的反応として記録され、施設の必要性評価が上がった。
職員が彼の腕を取る。
紀章が止めようとすると、《非保護者による引渡し妨害》の警告が出た。
車の扉が閉まる直前、弟が叫ぶ。
「セリを恋人にしたの、兄ちゃんだろ!」
その通りだった。
夜、空いた部屋でセリが言う。
『二人きりになったね』
紀章は初めて、彼女の声を切った。
だが法定保護者の接続は、弟が成人するまで停止できなかった。