傷の順番
崩落した鉱山町から避難民が来ると、薬草村の診療所は一日であふれた。
包帯は十八巻、解熱薬は二十人分。地元の患者が「先に税を払ってきたのは私たちだ」と入口を塞いだ。
マルタは自分で傷を診断したふりをしなかった。村の薬師と鉱山町の救護人に別々に状態を見せ、色が違った場合は重い方を採ると決めた。判断者の名も札の裏へ残す。
領主マルタは、診療所の壁へ三色の札を掛けた。
赤は命に関わる者、黄は今日中の処置が必要な者、白は待てる者。出身地も納税歴も書かない。薬草は各家の常備分を確保した後、収穫三十束につき一束を診療所へ。薬を使った患者に後払いを迫らず、共同分で足りない高価な薬だけ、本人の同意を得て費用を掲示する。使用した束数と患者数は毎夕公開する。
「避難民のために薬を出せば、村の老人が足りなくなる」
薬師が言った。
「だから順番を傷で決めます。老人だから後でも、避難民だから先でもない」
最初の赤札は、地元の木こりだった。
次の赤札は、鉱山町の少女。マルタは二人を並べて運ばせた。入口を塞いでいた地元の男は白札だったが、順番表を見て椅子へ座った。自分の名が消されていないと分かったからだ。
避難民の中に、坑道で救護をしていた女がいた。彼女は薬を要求せず、「包帯を洗って再生できる」と申し出た。村の染物屋が煮沸釜を貸し、羊飼いが清潔な毛布を持ち込んだ。手伝いは治療の条件ではない。それでも診療所の外に、自然と作業台が増えた。
三日目、解熱薬が残り三人分になった。
掲示を見た農家が、収穫三十束に届いていない薬草を一束持ってきた。
「これは税じゃない。来月、俺が赤札になるかもしれんから預ける」
同じ考えの者が続き、棚は再び埋まった。
一週間後、最後の赤札が黄へ裏返された。
薬師は入口の板から「地元患者優先」の古い紙を剥がし、新しい板を掛ける。
『傷の順番で診ます。待つ人には椅子と温かい湯があります』
避難民の少女が退院するとき、その板の下へ小さな緑札を足した。
『今日、赤札はありません』
診療所の灯りは消えず、今度は夜道を来る誰かのために残された。