傷跡の順番
宗一郎の鎖骨には、細い傷があった。
触れると彼は痛そうに息を止めるのに、シャワーでは強くこすっていた。私が見ると、急に手を離した。
前の恋人に割れたグラスで切られたのだという。赤い口紅を見ると当時を思い出すから、私には使わないでほしいと頼んだ。
私は快く捨てた。
彼は私を大切にしてくれる一方、喧嘩のたびに日付と謝罪内容をノートへ書かせた。「また同じことをしないため」と言われれば断れない。友人と出かける時も、帰宅時刻を破らないという約束に署名した。
傷ついた人は安心の形が必要なのだと思っていた。
宗一郎が元恋人の話をする時は、必ず私の失敗と結びついた。「あの人も最初は返信が遅かった」「あの人も男友達を家族みたいだと言った」。比較されるのが嫌で、私は返信を早め、幼なじみの連絡先を消した。彼はそのたび傷を指でなぞり、「理佐は僕を治してくれる」と言った。治せるのは私だけだという誇らしさが、窮屈さを上回っていた。
謝罪ノートの最初のページには、前の女性の筆跡が薄く残っていた。宗一郎は紙を再利用しただけだと言い、私に上から書かせた。重なる文字は、同じ失敗をする女たちへの警告に見えた。
ある日、宗一郎の元恋人だという女性が職場へ来た。彼女は赤い口紅をつけていた。私は無神経さに腹を立てたが、女性は古い卒業アルバムを差し出した。
高校生の宗一郎が、体育祭で上半身をさらしている。鎖骨には同じ傷があった。写真の日付は、元恋人と出会う四年前だった。
「私も、その傷を私のせいだと言われた」
女性は、別の二人の連絡先も見せた。全員が同じ話を聞かされ、口紅を捨て、友人を減らし、謝罪文を書いていた。
帰宅した宗一郎にアルバムを見せると、彼はしばらく黙ったあと、「昔の写真を持ち出すなんて、やっぱり異常だろ」と言った。
私は元恋人たちに操られているのかもしれない、と一瞬思った。宗一郎はその迷いを見逃さず、私の口紅のない唇へ指を当てた。
「理佐は、あの人たちと違うよね」
傷は、どの女よりも先に彼を知っていた。