入れない決勝席

全国決勝の当日、夕凪原清央はスタジアム前で、泣いている家族に声をかけた。

高額で買った電子チケットが、入場ゲートで無効になったという。

販売者は轟木章悟。彼は同じ座席を十人へ売り、〈名義変更済み〉と説明していた。少し離れた場所で、別の購入者からさらに現金を受け取っている。

清央は大会運営のチケット担当だった。

「公式リセールを通しましたか」

「手数料が高いから直接でいいって……」

今回のチケットは購入者の本人情報と顔認証へ紐づく。公式リセール以外で譲渡しても、ゲートの登録名は変わらない。章悟が送った“変更完了画面”は、画像編集で作った偽物だった。

章悟は、自分が入場してから同伴扱いで全員を通すと言い張った。

しかし一座席へ入れるのは一人だけ。しかも彼は、法律で規制される特定興行入場券を反復して高値転売し、複数人から代金を受け取っていた。運営は以前から出品を監視し、決済記録と座席番号を保存していた。別の試合でも同じ名義が高額転売を繰り返しており、警察には過去の出品一覧と振込先まで提出済みだった。

警察官が章悟へ事情を聞く。

「ただの個人間取引だ」

清央は十人分の振込画面を示した。同じ席、同じ時間、総額百万円以上。大会公式ロゴを使った偽の名義変更通知もある。購入者の中には未成年もおり、保護者が被害申告書へ署名していた。

章悟のチケットは規約違反と不正利用の疑いで停止。彼自身も入場できなくなった。決済サービスは売上金を保留し、被害申告を受けた購入者へ返金手続きを開始した。

空いた座席は、公式リセールの待機リストへ戻された。

泣いていた家族の端末へ、正規価格での再購入案内が届く。清央が本人確認を手伝うと、ゲートは緑に光った。

一方、章悟が何度スマートフォンをかざしても赤い警告音が鳴る。

決勝開始の笛が響き、同じ一席を売られた十人のうち、本物の公式券を得た家族だけがスタンドへ入った瞬間、誰より多く売った章悟だけが試合を一秒も見られなくなった。