共同管理の消しゴム

隣になった初日、彼は机の間に消しゴムを三つ並べた。

「ここから越境禁止」

僕らは小学校からの友達だったが、前の週にけんかをした。貸した漫画を濡らされたことが始まりで、謝り方が気に入らない、言い方が悪い、と話が膨らんだ。

席替えで隣になっても、仲直りする気はなかった。

三つの消しゴムは国境になった。教科書も肘も越えてはいけない。プリントは後ろから回し、前へ渡すだけ。会話は必要事項のみ。

それでも、毎日少しずつ境界は乱れた。

数学で定規が転がり、彼の領土へ入る。返して、と言いたくなくて放置すると、休み時間に削って戻ってきた。国語辞典を忘れた彼が、僕のものを横から読もうとする。僕は本を中央へ寄せたが、何も言わなかった。

雨の日、窓から風が入り、机の上のプリントが飛んだ。彼が両手で押さえた拍子に、消しゴムが床へ落ちた。

国境が消えた。

二人とも拾わなかった。

そのまま午後の避難訓練になった。机の下へ入るよう放送が流れ、僕らは狭い空間で膝をぶつけた。

「そっち行けよ」

「机一個しかないだろ」

「自分の下に入れ」

「境界ないし」

彼が言った。

僕は吹き出した。彼も笑った。訓練中なので声を押し殺し、肩だけが揺れた。

避難後、校庭に並ぶと、濡らされた漫画の話をした。

彼は窓辺に置いてしまい、雨に気づかなかった。弁償しようとしたが、僕が「もういい」と怒った顔で言ったので、謝る機会を失ったという。

「もう一回貸す?」

僕が聞くと、彼は首を振った。

「今度は自分で買う。同じの二冊買って、一冊渡す」

「そこまでいらない」

「じゃあ半額出せ」

結局、二人で一冊を買うことになった。

教室へ戻ると、床に落ちた消しゴムが三つ並んでいた。誰かが拾って机の中央へ置いたらしい。

彼は一つを自分の筆箱へ、僕は一つを僕の筆箱へ入れた。残り一つは机の隙間に置いた。

「これは?」

「共同管理」

席替えが終わるまで、境界線は復活しなかった。

代わりに、二つの机の真ん中には、必要なときどちらでも使える消しゴムが一つ残った。