凍った太陽へ花粉を届ける

花粉つけ人アデルンは、筆一本で花畑を歩く男だった。

蜂の少ない高地では、花から花へ花粉を運ばなければ実がならない。だが農園主は「花を撫でるだけ」と給金を半分にし、魔法で派手に咲かせる園芸師ばかり褒めた。

アデルンの技能は、一日に一組の花しか結べない。

【異花受粉:今咲いている二つの花の間で花粉を運び、一つの実を結ばせる。距離と花の種類は問わない】

百年冬が始まった日、太陽は氷の殻へ閉じ込められた。

北国の《白夜花》と南国の《暁花》が同時に咲けば新しい太陽が生まれるという伝承があった。しかし両国は戦争中で、互いの聖花へ触れる者を殺すと宣言している。

北の王は白夜花を独占し、南の王は暁花の花粉を焼いた。民が凍えても、先に頭を下げた側が負けだと言い張った。

アデルンは国境の雪原に立った。北の塔で白夜花が一輪、南の火口で暁花が一輪、今まさに咲いている。二つとも空へ花弁を向け、凍った太陽を待っていた。

彼は暁花から取っておいた金の花粉を筆先へ載せた。

「花は国境を知りません」

技能を使う。

筆を一度振ると、金粉が光の筋となって南から北へ走った。軍隊も城壁も越え、白夜花の中心へ静かに降りる。同時に白い花粉が北から南へ返り、暁花へ届いた。

二つの花は遠く離れたまま、一つの受粉を完成させる。

空で大きな実が結ばれた。

氷殻の内側に金色の種が生まれ、ひびが走る。凍った太陽は殻を割り、新しい朝として昇った。雪原に光が満ち、両軍の兵は剣より先に凍えた手を温めた。

北王と南王の旗だけが、同じ雪解け水へ倒れた。

雪解け水は国境線を消し、両軍の炊事兵が同じ鍋へ湯を沸かした。二人の王が花の所有権を叫んでも、結ばれた太陽はどちらの旗にも従わない。アデルンの筆先には、新しい実からこぼれた一粒の種が残り、凍土の中央へ落ちた。 その芽は二国の旗の間で、どちらにも傾かず伸びた。春が来た。

《職業が【花粉つけ人】から【天陽受粉使】へ書き換わりました》