凍土の温室
火力が弱すぎる。
その一言で、火術師シルフィは軍を解雇された。彼女の炎は鎧を溶かせず、敵陣も焼けない。ただ、凍えた指を傷めず温めることだけが得意だった。
与えられた北辺の農地には、割れた温室が一棟残っていた。
初日、シルフィは畑の雪をどけなかった。温室の北窓、その一枚だけを直すことにした。
ガラスは手に入らない。納屋で見つけた薄い雲母板を枠へ合わせ、樹脂を温めて隙間へ流す。強すぎる火なら雲母が割れ、弱すぎれば樹脂が固まらない。
軍で役立たずとされた細い炎が、今日だけはちょうどよかった。
途中、樹脂を急いで温めすぎ、雲母の端に細い亀裂が走った。軍なら失敗品として捨てられる。シルフィは火を止め、亀裂の先へ小穴をあけて広がりを止め、その上から樹脂を薄く重ねた。完全ではないが、北風は防げる。手袋を外した指は赤くかじかんでいたので、掌の中へ豆粒ほどの炎を灯す。痛みを感じない温度までゆっくり戻す、その加減こそ彼女にしかできなかった。温まった指で枠をなぞると、樹脂は柔らかく均一に馴染み、亀裂さえ金色の筋に見えた。
夕方、最後の隙間が塞がる。
温室の小さな炉へ火を入れると、白く曇っていた内側の空気がゆっくりほどけた。土の鉢に残っていたタイムの株から、凍っていた葉が一枚だけ起き上がる。
指で触れると、青く鋭い香りがした。
そこへ軍の伝令が雪をかき分けて来た。
「補給部隊の凍傷が続出しています。司令部は、あなたの復帰を認めると」
認める。
謝るのではなく、使えると分かったから席を戻す言葉だった。
シルフィは命令書を受け取り、雲母板の重しとして窓辺へ置いた。
「返答期限は今夜です!」
「では、今夜いっぱい考えます」
彼女は温室の炉で黒パンを炙り、山羊チーズをのせた。表面がふつふつと溶け、摘んだタイムを散らすと香りが一段深くなる。
外では吹雪が窓を叩いた。直した一枚からは、風が入らない。
シルフィは熱いパンを両手で持った。
誰かを焼くには弱い火でも、明日の芽と今日の夕食を守るには、十分すぎるほど強かった。