処刑斧は王の声で語る

「魔力ゼロの間者に、王家の斧を使うだけありがたく思え」

執行官が言い、倉田伊織の首を断頭石へ押しつけた。

伊織は転移後、鍛冶工房に拾われた。

刃物へ触れると、作り手の感情が微かに分かる。それを面白がった親方が王宮へ推薦したが、宝剣に触れた瞬間、伊織は「この剣は王を守りたがっていない」と口にしてしまった。

翌日、国王暗殺を企てた罪で処刑が決まった。

広場に運ばれた王家の処刑斧は、巨大な赤い刃を持つ。

千人の反逆者を斬った聖具だと司祭は誇った。

けれど伊織の頬へ刃が近づくほど、耳の奥で泣き声が大きくなる。

そこで能力の全貌が示された。

《刃の証言》

一振りの刃が見届けた記憶を、一度だけ万人へ再生する。

執行官が斧を振り上げた。

伊織は刃へ指を伸ばし、能力を使った。

赤い光が広場を覆う。

空中へ最初に映ったのは、二十年前の夜だった。

若い国王が兄王の背後に立ち、同じ斧を振り下ろす場面。

次に、口封じされた侍女。処刑された近衛隊長。偽の反逆証拠へ王印を押す宰相。斧が見続けた秘密が、王自身の声と姿で次々と再生される。

最後の記憶には、昨日の宝剣が映った。

国王は剣へ魔族の血を塗り、操心契約を結んでいた。

伊織の言葉は暗殺予告ではなく、刃が発した救難だった。

「止めろ! 偽物だ!」

玉座の天幕から国王が叫ぶ。

だが処刑斧は執行官の手を離れ、自ら地面へ刃を突き立てた。鑑定司祭が聖具計を当てると、表示は《証言信用度・完全》まで上がり、計器の聖石が音を立てて砕ける。

伊織を押さえていた兵が手を離した。

赤い光は消え、能力は終わる。

それでも広場の誰も、見たものを忘れられない。

王国最古の騎士、白髪の近衛総長が観覧席から立ち上がった。

彼は国王ではなく伊織へ歩み寄り、断頭石の前で剣を抜く。攻撃のためではない。刃を両手で差し出し、静かに尋ねた。

「この剣は、まだ私を恥じているか」

罪人として伏せさせられていた伊織へ、今度は王国中の刃が証人を見るように向いていた。