出口を向いた名誉席
収穫舞踏会の大広間で、ノラの席だけ扉を正面にして置かれていた。
背後を人が通ると落ち着かず、出口が見えない場所では食事も喉を通らない。騎士団長エドムントは、彼女が会議のたび壁際を選ぶことを覚えていた。
「この位置でいいか」
「はい」
王国最強の騎士団長は、訓練で一言も慰めないことで有名だ。それなのにノラの椅子には、背後を塞ぐ低い衝立と、苦手な濃い葡萄酒の代わりに林檎水まで用意している。
宴が始まる直前、主催の伯爵夫人が席次表を見て眉をひそめた。
「団長の隣席が壁際では格好がつきません。中央へ」
給仕が椅子へ手をかける。ノラは即座に言った。
「動かさないでください」
夫人は困った顔で笑う。
「名誉席ですよ。皆があなたを見られます」
「見られたくありません」
周囲から、団長に大切にされるなら堂々とすべきだという囁きが聞こえる。
エドムントが席次表を取った。
「中央席をこちらへ移せ」
「広間全体の配置が崩れます」
「崩せ」
結局、団長の名誉卓そのものが壁際へ移された。玉座に近い場所より、ノラが呼吸できる場所を選んだのだ。
食後、伯爵夫人はなお挽回しようと二人を舞踏床へ呼ぶ。
「では最初の舞を。団長夫人候補のお披露目です」
ノラは林檎水を置いた。
「踊りません。候補とも呼ばれたくありません」
一瞬、エドムントの表情が硬くなる。彼が自分との関係を拒まれたと受け取ったのかと、ノラの胸が縮んだ。
だが団長は司会者へ言った。
「聞こえたな」
「しかし団長のお立場が」
「私の立場は、彼女の返事で守らせるものではない」
彼はノラへだけ尋ねる。
「ここで音楽を聴くか。帰るか」
「ここがいいです。扉が見えるので」
エドムントは隣へ座り直し、楽団へ舞曲ではなく静かな小曲を命じた。
ノラは小声で尋ねた。
「候補と呼ばれるのを嫌がって、怒りましたか」
「怒っている」
エドムントの答えに肩が跳ねる。
「勝手に発表した者へだ。おまえへではない」
彼は感情の向きまで明確にし、彼女へ機嫌を直す役目を負わせなかった。
「ノラの席も呼び名も、本人の許可なく動かすな。中央へ出ないことを、恥と呼ぶ者は退席せよ」