制服の内側に縫われた番号
王都ホテルの正面ロビーで、芦原支配人は客室係の榊原都を呼び止めた。
「その汚れた制服で貴賓を迎えるつもりか」
都の白い袖には、落ちない葡萄酒の染みが広がっていた。出勤時、芦原が〈今日からこれを使え〉と渡した制服だ。着替え直そうとした都を、彼は従業員通路へ鍵をかけて追い返していた。
「交換をお願いしました」
「新品を汚しておいて、まだ要求するのか」
芦原は宿泊客の前で都の名札を外し、床へ落とした。日頃から彼女だけを従業員食堂へ入れず、受け取った心付けも〈教育費〉として取り上げていた。
「制服代と今月の心付けを弁償に充てる。嫌なら辞めろ」
その日、ホテル本部の覆面監査員が貴賓役として宿泊していた。監査員は都の袖を見て、内側を確かめる。
「支配人。この制服の管理番号は?」
「都に支給した新品です。台帳にもそう書いてあります」
芦原は制服交換票を取り出し、今朝の日付と自分の署名を見せた。
監査員が袖口を裏返す。糸の下から、銀色の番号が現れた。
〈管理職用・A-01〉
それは芦原自身の予備制服だった。さらに染みの中央には、洗濯室の検査印がある。前夜、〈廃棄予定・故意汚損〉として芦原が持ち出した記録まで残っていた。
「番号札をこの女が縫い替えた!」
「銀糸は本部でしか縫えません」
監査員は交換票を台帳へ重ねる。都へ本来支給された制服〈S-24〉は、芦原の私室の保管記録になっていた。
保安係が私室から箱を運ぶ。中には未使用のS-24と、従業員名が書かれた心付け袋が十七個。どれも封を切った者の指紋が保存され、芦原のものと一致した。
「預かっていただけだ。部下が散財しないように――」
「返却記録は一件もありません」
都は床の名札を拾った。監査員はそれを受け取り、埃を払い、彼女の胸へ戻す。
ホテル本部長がロビーへ到着し、芦原の制服から支配人章を外した。宿泊客たちが見守る中、封書を開く。
「芦原敏彰。従業員への継続的嫌がらせと金品横領により、即時解雇を通告する」