制服の採寸室
就職用の制服採寸が、放課後の被服室で行われた。
私は地元の百貨店へ就職する。
採寸担当の人が肩幅を測り、袖丈を決め、紺色のジャケットを試着させた。
鏡の中の私は、急に大人の形になった。
友人は東京の服飾専門学校へ進む。
「似合う」
彼女が言った。
「店員っぽい?」
「諦めた人っぽい」
冗談に聞こえなかった。
私は服を作る仕事がしたかった。けれど父が失業し、専門学校の学費は出せないと言われた。就職して家へお金を入れる。それが今できる選択だった。
「仕方ないでしょ」
「奨学金もある」
「借りて、東京で暮らして、卒業後に仕事がなかったら?」
「やってみないと」
「そっちは親が出してくれるから言えるんだよ」
採寸室が静かになった。
友人は「ごめん」と言い、先に帰った。
私はジャケットを脱ぎ、担当者へ渡した。
ポケットの内側に、縫い目が少し曲がっているところがあった。誰が縫ったのだろうと思った。
被服室の先生が、私の進路希望を知っていた。
「働きながら夜間の学校へ行く方法もある」
「簡単じゃないです」
「簡単だとは言ってない」
先生は余った布を一枚くれた。
「制服の補修用。持って帰って練習しなさい」
家で、その布を使って小さなポーチを作った。縫い目は曲がり、ファスナーもずれた。
翌日、友人へ渡した。
「東京で使って」
友人はポーチを見て泣いた。
「私、ひどいこと言った」
「本当のことでもあった」
「違う。お金を出してもらえる私だって、怖いのに。自分の怖さを隠すために、あなたを急かした」
私たちは被服室で、進路について初めて喧嘩ではなく話した。
私は百貨店で働き、二年後に夜間の服飾学校を受ける計画を立てた。友人は東京で学び、使わなくなった教材を送ると言った。
春、制服を着て初出勤した。
鏡の中の私は、夢を諦めた人にも、夢を叶えた人にも見えなかった。
働き始めた人だった。
胸ポケットの内側には、自分で小さな糸印をつけた。
いつかこの制服を脱いで、作る側へ移るための目印。
進路は一着で完成する服ではなかった。
ほどき、縫い直し、体に合わせていくものだと思った。