午前一時のサービスエリア
榛原珠生は、毎晩零時五十分に目を覚ました。
長距離トラックを運転する岩城賢吾が、午前一時ごろサービスエリアへ入る。到着すると短いメッセージが来る。〈休憩〉の二文字だけ。その二文字が、珠生にはどんな長文より必要だった。それを確認してから眠るのが、半年続いた習慣だった。
けれど賢吾には、いつも「寝てた」と返していた。
珠生の枕元には、全国のサービスエリアでもらった紙ナプキンが一枚ずつ挟まれた手帳がある。賢吾が通った場所を線で結ぶと、日本地図の上に不格好な縫い目ができた。
待っていると知られたら、彼が急いで走るかもしれない。負担になりたくない。ただそれだけで、珠生は好きを隠した。
その夜、メッセージではなく電話が鳴った。
「起きてた?」
「寝てた」
一度目の嘘は、いつも通り滑らかに出た。
「じゃあ切る」
「待って。何かあった?」
「眠れないから声聞きたかっただけ」
トラックの休憩時間は十五分。賢吾はあと九分で出発しなければならないという。
「珠生、毎回すぐ返信するよな」
「通知で起きるの」
「昨日、送る前に既読ついた」
「アプリの不具合じゃない?」
「先週も」
逃げられないほど、証拠が揃っていた。珠生は枕元の時計を伏せた。
「寝てたよ」
二度目は、自分でも苦しかった。
電話の向こうで、大型車が低い音を立てて通り過ぎる。賢吾は少し黙ってから言った。
「俺、来月から九州便になる。休憩、三時くらいになる」
「そっか」
「もう返信しなくていいから」
やさしい言葉なのに、習慣ごと手放せと言われたようだった。出発まで四分。
「珠生?」
「寝てない」
「え?」
「ずっと待ってた。〈休憩〉が来るまで、毎日」
賢吾の息が、通話のすぐそばで止まった。
「三時でも?」
珠生は答えず、スマートフォンの設定を開いた。賢吾の連絡先だけに付けていた消音を解除する。午前三時のアラームを作り、毎週ではなく毎日を選んだ。
「もう出る時間でしょ」
「うん。着いたら送る」
電話が切れたあと、珠生は端末を伏せなかった。音の出る面を上にして、枕の隣へ置いた。