午前零時のコミット

大学のプログラミング試験で、香月井琉成の提出コードが模範解答と完全一致した。

変数名も、コメントの誤字も同じだった。

「サーバーへ侵入したのでは?」

首席の越智川蒼真が教授へ告げた。琉成は研究室の保守アルバイトをしており、端末へ触れる機会がある。教授は不正アクセスとして、退学処分もあり得ると告げた。

琉成は提出履歴を開いた。

「コードの完成時刻を見てください」

彼の開発環境は、入力するたび履歴を保存する。最初の一行は試験の一週間前。授業で出された練習課題を発展させ、少しずつ完成していた。模範解答と一致した部分も、琉成の履歴では先に存在している。

一方、大学サーバー上の模範解答が作られたのは、提出締切前日の午前零時三分。教授のアカウントから登録されていた。

教授は、自分が琉成の考え方を参考にしたのだと言った。

情報センターがアクセス元を調べる。午前零時三分、教授のアカウントを使った端末は、研究棟ではなく学生寮の共用室にあった。監視カメラには、越智川が端末へ座り、琉成の公開練習リポジトリからコードをコピーする姿が映っている。

越智川は教授の許可を得たと主張した。

だが共用室の机に置かれた学習記録カメラには音声もあった。

『模範解答に先に入れれば、あいつの提出が盗作になる』

越智川の声。

『推薦研究員は一人でいい。私のアカウントを使え』

教授の声だった。

さらに琉成のコードには、意図的に残した未使用変数が一つあった。自分の履歴を識別するための印だ。それまで模範解答にもコピーされていた。作成順序は、もう言い換えでは覆せなかった。

学部長は琉成の不正疑惑を撤回し、教授を授業と推薦審査から外した。越智川の試験は無効。研究員推薦も凍結された。

琉成の提出画面には、最後の履歴が表示されている。

〈23:48 完成〉

その十五分後に作られた“模範解答”のほうが模倣品だと正式認定された瞬間、午前零時を越えて盗んだ二人だけが、未来へのアクセス権を失った。