右端にいる

志帆は集合写真の右端を選ぶ。

元恋人が、写真を撮るたび言ったからだ。

「真ん中に来ると顔の大きさ目立つよ。端なら切れるし」

冗談のような口調だった。志帆も笑い、実際に右端へ立った。別れたあと、誰もそんなことを言わなくなっても、写真が届くと自分の部分を切った。SNSへ載せるときは、景色と友人だけを残した。

部署の先輩が退職する日、会議室で小さな送別会が開かれた。最後に十人で写真を撮った。志帆はいつものように右端へ立ち、少し体を外へ向けた。

夜、幹事から共有アルバムのリンクが届いた。

一枚目で、志帆は目を半分閉じていた。頬も照明で白く飛び、隣の人より顔が大きく見える気がした。

志帆は編集画面を開いた。右端を切れば、写真はきれいにまとまる。先輩を中心に、全員の笑顔が残る。自分だけいなくても、誰も困らない。

切り取り枠を左へ動かし、肩が半分消えたところで止めた。

その写真には、志帆が渡した花束を先輩が抱えている。志帆の手だけが花の端に触れていた。

志帆は枠を元へ戻した。

加工も明るさ調整もしないまま、部署のチャットへ「共有します」と添えて送った。

送った直後、志帆は通信を切ってしまいたくなった。誰かが保存する前なら削除できるかもしれない。だが送別会の写真は自分の写りを審査するためではなく、その場にいた人へ渡すためのものだった。志帆は削除ボタンを探さず、花束代の精算メッセージへ返事をした。

すぐにスタンプがいくつかついた。写真そのものへの感想はなかった。志帆の写りを褒める人もいない。

送信後、拡大して自分の顔を確認する癖が出た。指を広げかけて、画面を閉じた。

洗面所の鏡では、やはり頬の丸さが気になった。元恋人の言葉が間違いだったと断言できるほど、自信は戻っていない。

写真の中の自分を好きになる必要までは、まだなかった。

翌朝、共有アルバムを開くと、右端に志帆がいた。目は半分閉じたままだった。

志帆は削除依頼を出さず、スマホを鞄へ入れた。