同じ包丁、違う名字

少人数料理教室の「包丁レッスン」に、同じ台の予約が二件入っていた。

私の名は、御子柴日和。もう一人は、初対面のような顔をした「稗田さつき」。講師の六角先生は名簿を見て困り、助手の円城さんは予備の台を出そうとした。

今日作るのは、鯵のつみれ汁。私は魚をおろすのが苦手だった祖母に、結局一度も教わらないまま見送った。遺品の包丁だけ受け継いだが、怖くて使えず、この教室へ来た。

二重予約に関われたのは、六角先生、円城さん、稗田さん。手掛かりは三つあった。

稗田さんが持っていた古い受講票には、私の祖母の旧住所。彼女の風呂敷には、祖母の包丁と同じ欠け方をした小出刃。そして予約備考には「味噌は最後」と、祖母の口癖が書かれていた。

「あなた、祖母の教え子ですね」

稗田さんは包丁を置いた。

祖母は若い頃、近所の女性たちに料理を教えていた。稗田さんは家事が苦手で、結婚前に何度も叱られたという。最後の教室の日、借りていた小出刃を欠けさせたのに、怖くて黙った。新しい包丁を返そうとしたが、祖母は「使った跡のあるほうがいい」と受け取らなかった。

祖母の一周忌で私がこの教室の申込書を持っているのを見かけ、稗田さんも同じ講座へ申し込んだ。六角先生に事情を話し、空いていた別台ではなく、私と同じ台に名を重ねてもらった。謝罪を私へ渡すのは筋違いと思いながら、それでも祖母から教わった手元を、誰かに返したかったらしい。

「二重予約なら、隣に立てるでしょう。でも名乗ったら、重たい話になると思って」

六角先生は、祖母の昔の教室に通っていた。だから二人の予約を重ね、一つのまな板を用意したのだ。

稗田さんは私の右側に立ち、骨へ当てる刃の角度を見せた。小出刃の欠けは、祖母の包丁と向かい合わせると、まるで一つの傷のように重なった。

つみれ汁が煮え、円城さんが火を止める。私は言われたとおり、最後に味噌を溶いた。

稗田さんが汁をひと口すすり、目を細めた。

「先生の味です」

私は湯気の向こうで祖母の笑い皺を思い出し、もうひと口よそった。

「では次は、私の味も教えてください」