同意欄の下半分
健康管理アプリの公開判定会議で、小野寺史佳は小型スマートフォンを机へ置いた。
新しい登録画面では、利用者の睡眠、月経周期、位置情報を提携企業の分析にも使う。企画責任者の指示で、〈同意しない〉は説明文の下へ移されていた。画面の下半分はキーボードに隠れ、スクロールしなければ選べない。
「同意率が先週より十五パーセント上がった」
責任者はグラフを示した。
「法務確認も済んでいる。余計な修正はしないで」
後輩デザイナーは、公開ボタンを押す担当だった。史佳はテスト端末で新規登録をやり直した。〈サービス向上のため〉という大きな同意ボタンは親指の位置にあり、拒否は灰色の細い文字。さらに一度同意すると、解除画面は設定の五階層先にある。文字を大きく設定した端末では、拒否の文字そのものが次の画面へ押し出されていた。片手で入力する利用者テストでは、三人全員が大きなボタンを登録完了だと思って押した。同意率の上昇は、説明が伝わった結果ではなく、出口を見失った人数でもあった。
「これ、選ばれたんじゃなくて、見つからなかった数字です」
責任者は眉を上げた。
「利用者は細かい説明を嫌う。迷わせないのも親切だよ」
史佳は後輩へ公開を止めるよう伝え、同意と拒否を同じ大きさで横に並べた。初期選択を外し、何の情報を何に使うのかを三項目に分けた。位置情報だけ拒否することもでき、解除はプロフィール直下へ置いた。
責任者は、目標値を達成できないと評価へ響くと言った。史佳は新旧画面の操作録画を添え、法務と情報管理責任者へ同時に再確認を依頼した。法務からは、形式上の同意だけでなく、自由に選べる表示へ直すべきだという返信が来た。
公開は一日延びた。後輩は「止めてくれて助かりました。押す役なのが怖かった」と小声で言った。
史佳は修正版を提出し、同意率の指標から〈拒否画面到達率〉を外すよう提案した。会議後、社内のプライバシー設計チームから半年間の異動打診が届く。
彼女は承諾し、最初の仕事として解除画面のテストを登録した。