同担の席は一つ空けて

鳥飼柊は、同担が苦手だった。アニメ〈深海郵便〉の配達人ルオを推していると分かると、相手は必ず「何話から好き?」「グッズはいくつ?」「限定上映は全部行った?」と尋ねる。好きの量を測られるくらいなら、会社ではアニメを見ない人でいたほうが楽だった。

新任課長の宝生久美子が、昼休みにルオの限定フィギュアを机へ置いた日も、柊は見ないふりをした。ところが自分の鞄から同じ箱が落ちた。抽選販売で届いたばかりの品を、帰宅途中に受け取るため持ってきていたのだ。

久美子が箱を拾う。

「ルオ推し?」

柊は身構えた。

「そうですけど、詳しいわけではありません」

先に小さく言えば、試されても傷つかない。だが久美子は「私も」とだけ答え、箱を返した。

数日後、限定カフェの予約枠が社内チャットの雑談で話題になった。同僚が久美子へ「鳥飼さんと一緒に行けばいいじゃないですか。同じものが好きなら」と言う。

柊は断る言葉を探した。上司の誘いを拒みづらい。久美子が先に答えた。

「同じ推しでも、一緒に行きたいとは限りません。私は一人で見るのが好きです」

その言葉は柊を守ると同時に、少しだけ驚かせた。

後日、二人は偶然同じ時間帯のカフェにいた。久美子は窓側、柊は壁側。席は一つ空いている。互いに気づいたが、手を振らず、それぞれルオのデザートを撮った。

会計前、交換特典がランダムだと分かった。柊には久美子の好きな絵柄、久美子には柊が探していた絵柄が出る。久美子はテーブルの空席へカードを置き、短く言った。

「交換だけ、どうですか」

「お願いします」

二人は枚数も課金額も聞かず、カードだけを入れ替えた。

月曜、柊は自分のデスクの引き出しにルオの小さなステッカーを貼った。外からは見えない。それでも以前のように、好きであることまで否定した隠し方ではなかった。

久美子とは親友にならない。同担の席は一つ空ける。その距離を選べると知ったことで、柊はやっと、ルオを好きな自分を誰にも採点させずに済んだ。