名前を呼ばない面接

採用面接で応募者の名を呼ぶと、応募者の寿命が一日減る。企業は色付きの椅子で人を区別し、受付後は「青の方」「白の方」と呼ぶ。採用予定のない人間に寿命を使わせると訴訟になるためだ。

伏見谷裕弦は転職活動の三か月で、赤、黄、緑、灰色、透明の椅子に座った。透明の椅子では面接官が最後まで彼を見失い、質問が一つも来なかった。どの会社でも名は履歴書に書かれたまま、声にはならない。面接官は「そちら」「次の方」と言い、結果は定型文で届いた。

帰宅すると、椅子の色だけを手帳に記録した。名前を呼ばれなかった日は、寿命が守られたのではなく、一日が最初からなかったように感じた。

二十三社目は、雑居ビルの小さな映像会社だった。椅子は一脚しかなく、塗装の剥げた橙色だった。

社長の瑞浪一花は履歴書を見て、最初に言った。

「伏見谷裕弦さん、遠いところありがとうございます」

裕弦の寿命票から一日が消えた。呼ばれると思っていなかったので、返事が遅れた。

「まだ採用も決まっていないのに」

「名前を惜しむ会社は、人間も惜しみます」

一花の机には、過去に採用した七人分の寿命補償券が額に入っていた。会社が日数を返せるわけではなく、単なる有給休暇券だった。

面接は十五分で終わった。技術試験も、志望動機もなかった。代わりに一花は、机の下から壊れたカメラを出し、「明日までに直せますか」と聞いた。

裕弦は持ち帰り、徹夜で分解した。故障はレンズではなく、内部に詰まった橙色の紙片だった。翌朝、動くカメラを抱えて会社へ戻った。

一花は映像を確認し、二度目に名を呼んだ。

「伏見谷裕弦さん。月曜から来てください」

また一日が消えた。裕弦は二日分の重さを感じるより先に、「はい」と答えた。

入社初日、机には新しい社員証があった。番号欄は空白で、氏名だけが大きい。裏面には「当社は一人につき採用時二日を負担させる」と手書きされていた。

橙色の来客証も添えられていた。名前の左右に丸い穴が二つ開き、その穴から、修理したカメラの中に残っていた細長い紙片が、舌のように覗いていた。